雑記286. 2017.11.14
“ 姥(うば)のイメージにピッタリです ”
ウバメガシには、赤茶色の新芽が若葉の瑞々しい緑とは対照的なおばあさんを連想させることから、“ 姥(うば)の芽をもつカシ” となり、この名前がついたという由来説があります。確かに、ウバメガシの小さく縮れた茶系統の葉(図8-286-1参照)は、誕生したばかりのフレッシュな葉というよりも、むしろ枯れ落ちる寸前の葉といった感じがしないではありません。
このように、若葉の枯れたイメージから名前に姥という文字があてがわれていますが、国産ドングリの中で最も鮮やかな黄緑色のドングリを結実するウバメガシにとって、これは不本意な命名と言えるかもしれませんが、中には、姥という名にピッタリの生気がなく、どこか枯れた感じのするドングリばかりを結実する個体もあるのです(図8-286-2参照)。
兵庫県伊丹市の昆陽池公園にある個体は、毎年たくさんのドングリが結実しますが、それらの全ての堅果に深い縦皺が見られます(図8-286-3参照)。艶々した美しいドングリが好みの私にとって、これはあまり好ましいものではありませんが、成熟したばかりなのに艶や張りが全くないという点では、とても珍しいドングリと言えるかもしれません。
このドングリの殻斗の内側にある離層の痕跡を見ると、普通のウバメガシよりも痕跡の周囲に激しいガタツキがあるのが判ります(図8-286-4参照)。おそらく、このガタツキを踏襲しながら果皮が成長したことによって、へそを起点に堅果の縦方向に深い皺が刻まれたのではないでしょうか。ガタツキの原因については、雑記280で紹介したクヌギの果皮に見られるキズと同じように、殻斗と堅果の部分的な癒着によるものと考えられます。
余談になりますが、関西方面では生垣樹としてウバメガシが幅広く植栽されています。単体のウバメガシに見られる若葉は、単に緑色の古葉を背景とした茶系統の葉にしか我々の目には映りませんが、形質が微妙に異なる個体が隙間なく隣接した生垣を見ると、しばしば違った印象を受けることがあります。
特に手入れが行き届いた生垣は、春になると樹木の個体差によって様々な色の若葉(黄色、赤色、橙色、赤茶色、焦茶色、薄緑褐色、黄緑色、緑色等)が出現します。その様は、まるでキラキラと輝く美しいモザイク模様の壁のようであり、そこには姥をイメージさせるものは何も見当たりません(図8-286-5参照)。