雑記280. 2017.10.19
“ キズがあるのに味わいがある 2 ”
 きれいなドングリを探し求めている私にとって、堅果の表面にあるキズはあまり好ましいものではありません。でも、ドングリが成長する過程で自然にできたキズの中には、時としてキズのないもの以上に私を魅了することがあります。今回紹介するのは、そんなドングリの一つです(図8-280-1参照)。

 以前、雑記Eでこれとよく似たキズがあるアベマキのドングリを紹介したことがあります。アベマキやクヌギのドングリには、稀にこのようなキズが入ったものが見られますが、それらの多くはへその周囲の果皮に鱗状に変質した細かなキズが見られるだけで、取り立てて興味を引くほどのものではありませんでした。

 ところが、今回あるクヌギから採集したものを見ると、鱗状のキズが縦に長く伸びて、堅果の胴回りにランダムな波形に似た独特の模様を創り出していました。ドングリの形状とのバランスを考慮して、特に模様が美しく見えるものを図8-280-2に並べてみました。

 いかがでしょうか?ツルンとしたキズのないドングリもいいですが、こういう模様が入ったものもなかなか素敵だとは思いませんか??


 雑記Eの末尾に、これらの模様が発生する原因について簡単に考察しましたが、今回採集したドングリの中にその推測を裏付けるものが見つかりました(図8-280-3参照)。

 ドングリは、へその部分(堅果と殻斗の接続部分)を起点にして新たな果皮を形成しながら成長しますが、この接続部分の組織に何らかの異常があると、そうでない部分との間で果皮の成長速度に差が生じて、果皮にその痕跡を残すことが予想されます

 通常、殻斗の内側に離層が形成されることで殻斗と堅果は分離します。殻斗から分離した堅果のへその周囲には、簡単に剥離する薄皮のような殻斗の組織が僅かに残っていることもありますが、ほとんどの場合は何も残りません。ところが、このドングリのへその周囲を見ると、殻斗の内壁の組織(内壁の微毛まで付着)が強固に癒着している部分がほぼ全周に見られます。
 殻斗の内壁の組織がこのような形でへその周囲に癒着しているということは、この部分で組織に異常が生じていた確かな証拠ではないかと私は考えています。