雑記276. 2017.10. 4
“ イヌブナのようなブナのドングリ ”
森林植物園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で、ちょっと変わったブナのドングリを見つけました(図8-276-1参照)。
殻斗が堅果を1つしか包含していないことは別にして、殻斗が堅果全体を包まずに下半分だけを覆っていることや、殻斗から伸びる柄が普通のものよりもやや長め(*)であることから、ブナというよりもイヌブナのドングリに近い形をしています(図8-276-2参照)。
* 典型的なブナの殻斗の柄の長さは10〜15mm程度ですが、個体によっては30mm前後のものもあります。
今回採集したものも含めて、殻斗が堅果を1つだけ包含したブナのドングリ(単果)をこれまでたくさん目にしてきました。その遭遇頻度を感覚的に表現すると、ブナ林に出かける度に採集してきたようなイメージです。
これは、ブナの単果が突発的な異常によって発生したものではなく、大昔にドングリが誕生してからの長い時間が経過して、現在は1つの殻斗が2つの堅果をもつものと1つの堅果をもつものが併存した状態にあることを意味しています。
殻斗が包含する堅果の数は、ドングリが誕生してから時間が経つにつれて減少する傾向があり、コナラ属やクリ属、シイ属、マテバシイ属のドングリでは共通の事象です。
おそらく、ブナ属についても例外ではなく、この先長い時間が経過すれば、最終的に殻斗が堅果を1つだけ包含したものに落ち着くことが予想されます。ところが、そう考えた場合、Formanが提案したドングリの進化系統図には大きな矛盾が生じます。
Formanは全ての属に共通するドングリの祖先型を想定して、図25-A(セクション25参照)のような進化系統図を提案しました。セクション25で、私はこの系統図に根本的な誤りがあることを指摘しましたが、その話は抜きにして、ここではこの系統図にある祖先型が存在したと仮定して話を進めます。
その場合、Formanの系統図からブナ亜科の系統(図8-276-4参照)だけをピックアップして、そこにブナ属の最終形態である殻斗が堅果を1つだけ包含したドングリを挿入すると、進化の末端に位置するドングリが、祖先型の1つの断片(単位構造)と全く同じ形態になってしまうのです。
進化の過程で様々に形態を変化させてきたにも関わらず、その末端と上流にある単位構造(**)が全く同じ形態であるということは、進化が不可逆的であるという生物学の基本的な概念に反するのではないでしょうか。
Formanの系統図にある、マテバシイ属やトゲガシ属の取扱いがドングリの実態にそぐわないと私が指摘する以前に、この系統図は論理的に矛盾していると考えられます。
** 祖先型の3つの単位構造を最終的に1つの単位構造に変化するのであれば、単純に減数すればいいのではないでしょうか。