雑記274. 2017. 9.26
“ 約束のタマバエ ”
 昨年、マテバシイの殻斗と堅果の接続部分に寄生するタマバエの幼虫を羽化させるのに成功しました(*)。ネットを通じて、タマバエの種類の同定を依頼したところ、九州大学の湯川教授からより詳しく調査して下さるとの連絡がありました。
 ところが、せっかくの有難い申し出に答えようとしていた矢先、私の不手際で標本を紛失してしまいました。以来、再びこれを入手するために、タマバエの幼虫の採取と羽化をトライし続けてきました。

 その後、このタマバエと同じ種類かどうかは判りませんが、マテバシイだけでなく、オキナワウラジロガシやツクバネガシのドングリにも同様に寄生していることが明らかになりました
(**)。ただ、後者については、いずれも羽化には至りませんでした。湯川教授には、” 必ず標本をお送りします “ と断言したものの、幼虫を再び採取できるかどうか、そして採取できたとしてちゃんと羽化させることができるかどうか、実際のところ不安で仕方がなかったのです。
  * 雑記236を参照願います。
** セクション9-5を参照願います。

 これまで、幼虫の採取は偶然に左右されてきたので、最初はできるだけ多くの個体からドングリを採取してまわりましたが、それらからは1匹も見つかりませんでした。
 そこで、過去に探索して幼虫が寄生していたことがある個体にターゲットをしぼって、それらから徹底的にドングリを採取した結果、ようやく今月の14日、瑞ヶ池公園 [ 所在地 : 兵庫県伊丹市 ] で6匹が寄生したものが見つかりました(図8-274-1参照)。ただ、残念な事に、堅果から殻斗を取り外す際に力を入れ過ぎたせいで4匹が潰れてしまいました。
 その後、15日に高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ]で1個 、さらに22日に大阪府立大学構内 [ 所在地 : 大阪府堺市 ] で2個、各々2匹ずつ入ったドングリを見つけました。ドングリに寄生するタマバチ(***)のように、どうやらタマバエも特定の個体を選別して寄生するみたいです。
 過去に幾度か採取した時には、1つのドングリに10〜20匹ぐらい寄生していたのですが、今回は採取時期が遅かったせいか、大半の幼虫は既にドングリから脱出して、逃げ遅れたものだけがドングリの中に取り残されていたように思われます。

 ドングリが熟すもっと前に着手すれば、より効率的に幼虫を採取できるのかもしれませんが、完熟前のドングリは殻斗と堅果を分離するのにかなりの力を要しますので、あまり得策とは言えないでしょう。完熟の直前ぐらいがちょうどいいのかもしれませんが、そのあたりの状況をうまく見極めるのは、口で言うほど容易くはありません。
*** セクション9-1〜9-4を参照願います。

 今回は、昨年考案した羽化システムに、濡れたティッシュを入れたもの(湿気)と入れないもの(乾気)に分けて、各々1匹ずつ幼虫を入れてみました(図8-274-2参照)。因みに、昨年羽化させたのシステムは後者でした。
 幼虫を採取して羽化システムに入れてからもずっと気をもんでいたのですが、25日の早朝に覗いてみると、9/14に採取した2匹の幼虫が別々のシステムで無事に羽化していました。どうやら、湿度は羽化とは無関係みたいです。

 前回と同様に、タマバエの幼虫はドングリから摘出した後、10日程度で羽化しました。少なくとも、マテバシイのドングリに寄生した幼虫を羽化させるのに、このシステム(そんな大層なものではありませんが...)が有効であることがこれで実証できました。羽化した当日の昼に、早速エタノールを入れた密閉容器にタマバエを浸漬して、湯川教授宛に発送しました。現在のところ幼虫はまだ4匹残っているので、しばらくは気を抜かずにしっかりと管理していきます。湯川教授の評価結果を楽しみに待ってます♪

(追記1)
 9月15日に高塚山緑地で採取した幼虫が、27日の昼過ぎに見ると黒く変色していました。当日の早朝に確認した時は、まだ変色していなかったので、朝から昼にかけて急速に蛹化が進んだものと思われます。

 図8-274-3は、システムの下に敷いたスポンジシートに貼り付いた蛹を撮影したものですが、蛹の周囲には細かい糸状のものが張り巡らされていました。タマバエが、シートの中で自身を固定するために分泌したものかもしれません。
 撮影した写真を湯川教授にお送りしたところ、“ 蛹の頭部に顕著な突起が見られないのは、虫瘤内で蛹化するタマバエとは明らかに異なっており、虫瘤から脱出した幼虫が地中で蛹化するタマバエの蛹に似ている ” との事でした。

 29日の昼過ぎで、蛹化してから丸二日が経ちますが、今朝の時点ではまだ変化が認められませんでした。数少ない検体なので、無事に羽化してくれることを祈ってます。


(追記2)
 残念ながら、追記1に記載した蛹は羽化しませんでしたが、9月22日に大阪府立大学で採取した4匹が10月2日(3/4匹)と10月4日(1/4匹)に羽化しました。また、瑞ヶ池公園と大阪府立大学で採取した幼虫について、蛹化(****)してから羽化するまでに要した日数を調査した結果、いずれも2〜3日程度でした。
**** 幼虫から蛹への変化は連続的なので、どの時点を蛹化と見做すかは個人によって違うと思います。私の場合は、肉眼で幼虫の一部が黒っぽく変色した時点を蛹化と判断しました。