雑記272. 2017. 9.20
“ 確かに鱗片葉でした ”
 ブナの殻斗の表面にある紐状の物体や、耳かきの先っぽのように見える物体は鱗片葉といわれていますが、後者は葉に見えないこともありませんが、前者は葉とはほど遠い形をしています(図8-272-1参照)。
 もっと端的に、これらの物体が鱗片葉であることを示せないものかと、これまでずっと考えてきたのですが、先日訪れた妙見山 [ 所在地 : 大阪府豊能郡能勢町 ] でこの物体が鱗片葉である明確な証拠を見つけました。

  図8-271-2がその証拠となるブナの殻斗です。この殻斗には、図8-271-1にある耳かきの先っぽのように見える物体と同じ柄(殻斗表面と耳かきの先っぽを繋ぐ部分)の先に、芽鱗片とそっくりなものがついています。そっくりと言うよりも、これは芽鱗片そのものです(図8-271-3参照)。

 たぶん、紐状の物体が大きくなると、耳かきの先っぽのような物体になり、それがさらに大きくなると柄のある芽鱗片(鱗片葉)になるのでしょう。 もしかすると、読者の中には既にご存じの方もいらっしゃったかもしれませんが、私は今回初めてこの事実を知りました。おかげで、ブナの殻斗の表面にある諸々の物体が鱗片葉であることが、これではっきりしました。


 余談になりますが、ブナ属も含めたコナラ属やシイ属、マテバシイ属の殻斗は、全て表面が鱗片葉で終端しています。殻斗は、種や属で形は違えども、基本構造はまったく同じであることから、他の属種と同様にクリの殻斗の表面で終端している棘も葉に由来するものと私は考えています。ただ、現在のところ棘の正体は明らかではありません。
 
 棘は分岐しているから葉ではなくて茎であると考える人もいるようですが、殻斗の表面の鱗片葉は属種を問わずおよそ葉とは思えないほどデフォルメされているので、葉の葉脈に葉肉が纏わりついたようなものを想像すれば、分岐していなくても棘が葉であるという解釈は十分成り立つと思います。

 ただ、棘は葉に由来するものだと考えている私も、一つだけ気になることがあります。それは、棘以外に殻斗の表面に点在する小さな突起物(図8-271-4の中にある赤い矢印で指示した物体)の存在です。
 もしかすると、この小さな突起物が葉に由来するもので、棘は何らかの目的で茎が変化したものかもしれません。いずれにせよ、これらの正体については今後の調査で明らかにしていきたいと考えています。

(追記)
 この芽鱗片のようなものから伸びる柄の先は、ちょうど果軸の根元付近で繋がっています。ですから、もしかすると紐状の鱗片葉が成長したものではなく、殻斗を保護する苞葉が成長したものかもしれません。