雑記269. 2017. 9. 5
“ 残念な逸品 ”
今年もドングリが降る季節がやってきました。私の通勤経路にある緑ヶ丘公園や摂津伊丹廃寺跡 [ 所在地 : 兵庫県伊丹市 ] では、8月下旬からドングリが降り始め、すでに樹下を覆いつくしているものもあります。幸いなことに、京阪神は春から天候が安定していたので、アベマキのみならず、他の樹種でもドングリの結実状況はとても良好です。
一昨日、摂津伊丹廃寺跡にある多果の発現率が高いアベマキの個体で、昨年に続き2果のドングリを見つけました(*)。アベマキの多果では、これまで1つの殻斗が2個の堅果をまとめて包含するタイプ(堅果統合型殻斗)しか見たことがありませんでしたが、今回初めて1つの殻斗が2個の堅果を分けて包含するタイプ(堅果分離型殻斗)を目にしました(**) 。そのドングリをいろんな角度から撮影したのが図8-269-1です。
* この個体で見つけた多果ドングリについては、雑記001、026、169、191を参照願います。
** 多果の形態の分類については、セクション3-1を参照願います。
同じコナラ属でもアカガシ亜属については、比較的多果を結実しやすい樹種が多いので、形態のバリエーションは概ね把握できているのですが、コナラ亜属についてはミズナラを除くとほとんど多果を結実しないことから、それらの実態についてはほとんど明らかになっていませんでした。
特に、長い鱗片をもつクヌギ、アベマキ、カシワの3種については、堅果分離型殻斗が実在するのか、もしあるとすれば隣接する堅果を仕切る部分がどのような構造をしているのか、これらは私にとって長い間興味の的でした。
今回見つけた堅果分離型の殻斗を見ると、仕切りの部分(上部)には鱗片がありませんでしたが、これはアベマキのこのタイプの多果の殻斗として非常にリーゾナブルな構造ではないでしょうか(図8-269-2参照)。というのも、仕切りの部分にまで長い鱗片が存在すると、仕切りとその周辺の鱗片が互いに干渉して、殻斗から堅果を放出する際の障害になるような気がするからです。ただ、これ以外にも殻斗のバリエーションが無いとは限りませんので、アベマキ以外のものも含めて引き続き調査するつもりです。
このドングリは、コナラ亜属の多果の形態について非常に重要な知見を与えてくれましたが、残念ながら成熟するかなり以前に落下したみたいで、私が見つけた時には腐敗と虫食害が進行していました。来年以降は、もう少し早い時期からこの個体をマークして、より完全な形のものを手に入れたいです。