雑記257. 2017. 6.27
“ これが殻斗の元になる器官です ”
殻斗の元になる器官と思われる部分の形態は、ドングリの種類によって様々です。図8-257-1は、開花してから約1ヶ月が経過したシラカシの幼果ですが、左側の花被/花床に覆われた雌花の下にある平べったい円筒形の部分が殻斗の元になる器官に該当します。
中には、右側のように円筒形の部分がほとんど確認できないものもありますが、この部分は大きさにかなりバラツキがあるので、たぶん雌花の下に埋もれて見えないぐらい小さいのでしょう。
殻斗の元になる器官がどのようなものなのか、はっきりしたことは何も解っていないようですが、私は以前セクション25の中で、この器官は雌花と必ずしも対ではなく、花軸(果軸)に独立して存在することを指摘しました(図8-257-2参照)。これは、雌花と殻斗の元になる器官を不可分とする一般的な考え方に反するものですが、殻斗の元になる器官を独立事象と考えれば現存する全てのドングリの形態をセルフコンシステントに説明できることから、私の解釈の方が理にかなっていると思います。
さて、殻斗の元になる器官が独立事象であれば、開花しなかった器官も花軸(果軸)に存在するはずです。ということで、数年前からそれを探し続けてきたのですが、なかなかこれだと確信できるものに出会えませんでした。
比較的よく目にするもので、たぶんこれが殻斗の元になる器官だと思えるのは、図8-257-3の直径1mmにも満たない小さな突起物です。
幼果が脱落した痕ではないかと思われるかもしれませんが、幼果が脱落した場合は果軸に痘痕のような窪み(図8-257-4参照)を残しますが、このような突起物にはなりません。たぶん、図8-257-3の突起物のようなものが殻斗の元になる器官だと思うのですが、誰が見ても “ これだ!” と確信できるようなものはなかなか見つかりませんでした。
そして、やっと “ これだ! ” と思えるものに出会えました。図8-257-5にある小籠包のような形をしたものがそれです。これが殻斗の元になる器官だと考えられる理由の1つは、この部分の根元に果実を包むための苞葉が残っていることです。そしてもう1つは、先端の突き出た部分と下部のふっくらした部分の境界付近に、幼果の殻斗の元になる器官と類似した形態的特徴(ギザギザした袋の口の部分)が見られることです(図8-257-6参照)。
小籠包の先端にある突起物が雌花との外観上の境界に相当し、ここに雌花が咲くと、小籠包の肉が詰まった部分の上部(ギザギザのある袋ぼ口のところ)が開いて全体が円筒形に変化すると思われます。
今回紹介したものはあくまで一例なので、他の種類でも同様のものが見つかれば順次報告していきたいと思思っています。少なくとも、これまでの調査結果から、殻斗の元になる器官が花軸(果軸)に独立して存在することは間違いないでしょう。
(追記)
雑記264の末尾で述べた通り、今後は先端部分が完全に閉じた状態のものだけを開花しなかった殻斗の元になる器官(器官単体)と見做します。そんなわけで、図8-257-5〜6の先端部分の口が微妙に開いているものについては、開花した殻斗の元になる器官に修正します。