雑記254. 2017. 5.26
“ 分岐した花軸に騙されました ”
 4月の下旬頃から、京阪神の各地でシイの木(スダジイ、ツブラジイ)の開花が見られるようになりました。とりわけ、鶴見緑地 [ 所在地 : 大阪府大阪市/守口市] にある個体は私のお気に入りで、ゴールデンウィークに訪れた時は、大きな樹の全体を覆いつくすかのように、薄黄色や肌色の花がテンコ盛りに咲いてました。(図8-254-1参照)。

 一方、自宅のある兵庫県三田市は六甲山系の北側にあるので、京阪神の中心部よりやや気温が低いせいか、シイの木の開花は5月中旬頃から始まります。三田市に隣接した掖谷公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] でも、20日頃にようやくツブラジイが開花しました。

 今回、それらの中の1体に大量の多果の雌花が咲いているのを見つけました(図8-254-3参照)。 毎年この個体を観察してきましたが、こんな状況は今年が初めてです。ほとんどの多果の雌花は、手の届く範囲の下枝に集中していましたが、そこにツブラジイではその存在が確認されていない珍しいものを見つけました(図8-254-4参照)。


 “ こ、これはもしかして5果の雌花では...??” シイ属では4果以上の雌花を目撃したことがない(存在するかどうかわからない)ので、この物体を目にした私はすっかりハイになってしまいました!!
 ただ、老眼のために細部がよくわからないので、念のためにマイクロレンズで撮影したものを拡大してみると、残念ながら5果の雌花では無いことが分かりました。

 ドングリとは、花軸にある殻斗の元になる器官(雌花の下にある土台のような部分)に、1個乃至複数個の雌花が咲き、それらが結実したものです。これは、全ての属種に共通の概念であると私は考えています(*)
* マテバシイ属では、一般に花序に対する考え方がコナラ属とは異なりますが、これまで独自に取得してきたデータを見る限り、私は同じものだと考えています。詳細については、セクション25を参照願います。
 この図をよく見ると、近接した複数の異なる殻斗の元になる器官に雌花が咲いているのが分かります。具体的に言うと、花軸本体から分岐した1.5mmぐらいの非常に短い花軸に、3個の単果の雌花(普通の雌花)と1個の2果の雌花が集結しており、あたかも1つの殻斗の元になる器官に5個の雌花が咲いたように見えただけでした。
 他の花軸もチェックしてみましたが、これほど短く分岐した花軸は見当たりませんでした。ただ、これに近いものなら幾つかありました(図8-254-5参照)。普通、花軸は分岐しませんが、私の経験から言うと、多果の雌花を大量に咲かせる個体ではそれほど珍しい現象ではありません
(**)
** セクション21-1を参照願います。

 今回はすっかり騙されてしまいましたが、シイ属にも4果以上の果数のドングリは必ず存在します。いつかそれを実証できる日がくることを、私は信じて疑いません。