雑記253. 2017. 5.13
“ 産卵シーンを目撃しました! ”
 コナラの殻斗の短枝(殻斗とそれに繋がる果軸)に寄生するタマバチの仲間 [ 文献未記載種 ] について、これまで幾度となくこのHPで紹介してきました(*)。このタマバチが寄生すると、殻斗から堅果へ供給される養分や水分のパスが遮断されるので、堅果は幼果のまま枯死してしまいます。ただ、寄生部位である殻斗を含む果軸は、本来の姿からは想像もつかないとてもユニークな姿形に変化します(図8-253-1参照)。
* セクション9-2を参照願います。

 ところで、このタマバチの仲間について私が把握しているのは、寄生部位がコナラの殻斗の短枝であることと、5月頃に羽化するまでの間、寄生部位で過ごすことぐらいでした。寄生する時期については、このタマバチが産卵している姿を見たことがないので、はっきりとしたことは解かりませんが、枯死した堅果のサイズや殻斗の状態から、殻斗に鱗片構造がはっきりする6月頃ではないかと推測してきました。

 毎年、この時期になるとタマバチの産卵シーンを確認するために、コナラの雌花や幼果を注意深く観察しますが、老眼が進行している私にとって、僅か2mm前後のタマバチの行動を目で追うのは、年を追うごとにきつくなりつつあります。
 あと数年チャレンジしてダメなら諦めざるをえないだろうと思いながら、今年も4月初旬から観察を続けてきたのですが、ゴールデンウィークに訪れた高塚山緑地 [ 所在地 ; 兵庫県神戸市 ] で、遂に念願の産卵シーンに遭遇できたのです☆

 
 この時期、高塚山緑地ではほとんどのコナラが開花しており、雄花序は既に枯れているか、あるいは茶色く変色した状態で新枝に垂下していました。また、樹下には昨年の秋に落下したコナラのドングリが至る所で芽を出していました(図8-253-2参照)。ここには、タマバチによってたくさんの虫瘤が形成されたコナラが何体(**)かあり、
その中の1体で開花したばかりの雌花に例のタマバチがいるのを見つけました。
** 理由は判りませんが、ブナ科の樹木に寄生する昆虫たちは、同じ樹種でも寄生する個体を選んでいるようです。このタマバチも同様に、特定の個体に対してのみ虫瘤を形成します。

 当日は風が強く吹いていたのですが、このタマバチは雌花にくっついたまま全然離れようとしませんでした。撮影しやすいように枝を折って、写真を撮りやすい角度に回転させても微動だにしなかったので、撮影環境としては申し分なかったのですが、如何せん、私の撮影技術が未熟なせいで、図8-253-4のように少しピントが合ってない写真しか撮影できませんでした。

 ただ、このまずい写真でも花被/花床の上から産卵管が突き刺さっている様子はよく分かります。私が目撃してから30分以上このままの状態でしたが、その後どこへともなく飛び去っていきました。あとになって、このタマバチをそのまま確保しなかったことを少し後悔しました。
 

 
 今回、産卵シーンを目撃するまで、このタマバチは開花後1ヶ月ぐらいが経過した幼果に産卵しているのではないかと思っていたのですが、実際は開花した直後に雌花に産卵することが明らかになりました。また、羽化の時期については、これまで私が確認したタマバチは5月中旬〜6月上旬頃
(***)でしたが、様々な場所で採取したものからタマバチが羽化する様子を見ていると、その年の気温や虫瘤が形成された場所(山や平地等)によって多少の時期は前後するように思われます。

 もしかすると、彼らが生活している土地のコナラの開花時期に合わせて、コナラの雌花が咲く直前に羽化して、開花と同時に産卵するというサイクルを繰り返しているのかもしれませんね。
*** 雑記124を参照願います。