雑記252. 2017. 5. 8
“ 枝垂桜の枝のような... ”
 今年の5月連休は好天に恵まれたので、連日ドングリの樹や花の観察に出掛けました。いつもは10回ぐらい出陣しても、1件かせいぜい2件ぐらいしか収穫はありませんが、幸運にもこの連休中はたくさんの収穫がありました。ここで紹介する特異なツブラジイもその一つです。

 京阪神の平地では、4月末〜5月末がシイの樹(スダジイ、ツブラジイ)の開花期です。この連休中も、薄黄色や肌色のたくさんの花が樹上を覆いつくす光景を至る所で目にしました。最終日に訪れた西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] でも、ほとんどの個体が花を咲かせていました(図8-252-1参照)。普段なら、常緑樹の林の中にあるとほとんど目立たないのですが、この時ばかりはモコモコとした花が目印になって、遠目にも容易に所在を確認することができました。

 今回、それらの中に異常とも言えるぐらい長〜い果軸をもつツブラジイを見つけました(図8-252-2〜図8-252-3参照)。ここ数年間、毎年のように同園を探索してきましたが、この個体でこのような果軸を目にしたのは初めてでした。


 この果軸を採取して長さを測ってみると、長いものは25〜30cmぐらいありました。実際に、個体から採取した果軸と並べて見ると、その長さに誰もが驚くことでしょう(図8-252-4参照)。長いだけあって、果軸に付いている幼果の数も半端ではありませんでした。因みに、27cmの果軸についた幼果の数をかぞえると、全部で57個もありました。


 ところで、この果軸が特異なのは長さだけではありません。普通のツブラジイの果軸と比べてみると、1本1本の果軸が独立せずに数本が纏まって束になっているところや、果軸が途中から分岐しているところが大きく異なります。これらの形態的特徴は、シイ属以外の果軸も含めて普通の個体ではまず見られませんが、コナラ属の樹木の中でも季節外れに開花する個体には、これと類似した形態を目にすることがあります(*)
* コナラ、ナラガシワ、ウバメガシ等で夏から秋にかけて咲いた花軸(果軸)には、これらの特徴を有するものが多く見られる(セクション22参照)。

 季節外れに咲いたコナラ属の花軸と特徴が似ていることから、あらためてこの個体を観察してみると、昨年の春に開花したものにしては鮮やかな黄緑色の果軸が多く見られました(図8-252-5参照)。スダジイと同様に、ツブラジイでも9〜12月にかけて開花する個体が少なからず存在しますが、翌年の春にこれらの果軸を観察すると、どれも黄緑身がかった色をしているので、この長い果軸もおそらく昨年の秋以降に開花したものではないかと考えられます。

 念のために、この個体で昨年の春に開花した果軸がないか探してみました。すると、数は少量でしたが、それらしいものが幾つか見つかりました(図8-252-6参照)。果軸が焦茶色をしているところや、軸の長さが10cm前後のところは、普通のツブラジイの果軸と全く同じでした。さらに、この春に開花した雌花軸を確認したところ、まだ十分に伸長していませんでしたが、雌花の数をかぞえてみると普通の花軸とほぼ同数でした(図8-252-7参照)。
 

 以前、季節外れに咲いたスダジイの花をトレースしたところ、翌年の秋には実を結びました。ただ、開花した数に比べると結実した数はごく僅かでした。今後、長い果軸についた幼果が実を結ぶかどうかとても興味がありますので、引き続きこの個体をマークしていきたいと思います。