雑記251. 2016.12.21
“ マテバシイだけじゃ無かったんだ ”
この秋、マテバシイの殻斗と堅果の接続部分に寄生する幼虫を羽化させるのに成功しました(*)。成虫の姿形からタマバエの仲間であることは判りましたが、種類を同定するには至っておりません。
その後、10月末に高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] のマテバシイから採取したドングリにも同じ幼虫が見つかりました。このドングリは成熟してからかなり時間が経過したもので、強固に癒着した殻斗と堅果を力づくで分離したところ、殻斗の内側に衰弱してほとんど動かなくなった幼虫が4匹いました(図8-251-1参照)。
今回のものも含めて、これまで採取してきたタマバエが寄生したドングリの状況から推察すると、この幼虫は寄生したドングリから養分が抽出できなくなる(ドングリが成熟して、殻斗と堅果の間に離層が形成された状態)と、殻斗と堅果の隙間からドングリの外に脱出して、別の場所で羽化しているのではないかと考えられます。寄生したドングリを解体すると、堅果の内部に幼虫が侵入した痕跡が認められないこともそうですが、仮にドングリの内部(殻斗と堅果の間含む)で羽化したとしても、タマバチの様な鋭い歯をもたないタマバエにとって、内側から穿孔してドングリの外に出るのは、かなり難しいと思われます。
* 雑記236を参照願います。
さて、タマバエの仲間はマテバシイのドングリにだけ寄生するものだと思っていたのですが、先日訪れた久米島で、オキナワウラジロガシのドングリにもそっくりな幼虫が寄生しているのを見つけました。マテバシイに寄生するものと同じ種類かどうかまでは判りませんが、素人目には区別できないぐらい両者は酷似していました。また、寄生している部位もマテバシイと同様に、殻斗と堅果の接続部分でした(図8-251-2参照)。
このドングリは、久米島ドングリ探検ツアーの3日目(11月29日)にオキナワウラジロガシの林の枯葉の上で見つけました。ドングリから殻斗を取り外した時には、殻斗の内側の離層の痕跡と堅果のへその部分に全部で11匹もいました。生きている幼虫を目撃したのはこのドングリだけでしたが、周囲に散乱しているオキナワウラジロガシの殻斗には、裾の部分に何かにぶつかって潰れた幼虫が付着したものが幾つか見られました。たぶん、これらの幼虫はドングリからの脱出に失敗したものと思われます。
11月30日に本土に帰る予定だったので、幼虫が見つかったドングリの殻斗を再び堅果に被せて、外れないようにテープで固定したものをビニール袋に入れて密封しました。帰宅してからで開封すると、半数は殻斗と堅果の間に挟まった状態で死んでおり、生き残った5匹だけをすぐにスポンジシートを敷いたプラスチックケースに入れました(*)。すると、マテバシイの時と同様に、幼虫はアッと言う間にスポンジの微細な穴に潜り込み、シートの裏側にまで到達してそこで動かなくなりました(図8-251-3参照)。
マテバシイのドングリの場合、20匹近くの幼虫が寄生していたドングリを解体すると、堅果の内部はほとんどが空洞で、種子は5mm程度まで萎縮して枯死していましたが、寄生していた幼虫が10匹前後のものでは、種子のサイズに異状は認められませんでした。幼虫の数と種子のサイズには相関がありそうですが、マテバシイのドングリにはシイナが多く含まれているので、はっきりさせるには検体数をさらに増やす必要があります。念のため、11匹の幼虫が寄生していたオキナワウラジロガシのドングリも解体して種子のサイズを調べてみたところ、異状は認められませんでした(図8-251-4参照)。
ツアーから帰宅して数日が経過してから、マテバシイに寄生したタマバエの種の同定を依頼している九州大学の湯川教授に連絡したところ、オキナワウラジロガシについても同定していただけるとの快諾を得ました。マテバシイでは羽化までの期間が10日前後だったので、12月1日にプラスチックケースに封印した幼虫は、12月10日から遅くても15日ぐらいには羽化すると予想していたのですが、20日が過ぎた現在も羽化する兆候は見られません。
マテバシイの幼虫が羽化したのはどれも10月上旬でしたから、オキナワウラジロガシから出てきた幼虫が同じ種類だとすると、とっくに羽化の時期を逸していることになります。ただ、幼虫はスポンジシートの裏側で今でもたまに蠕動してるので、もうしばらく待てば羽化するのかもしれません。現時点で私にできるのは、ただ待つことのみです。