雑記244. 2016.11.25
“ コルクガシのドングリ ”
兵庫県の観光名所の一つに、神戸市立農業公園(神戸ワイナリー) [ 敷地面積 : 31ha ] があります。ここは神戸ワインの発祥の地であり、現在は葡萄の栽培からワインの醸造、そして販売にいたるまで一貫してここで行われています。私がしばしば訪れる高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] から徒歩で10分と離れていない場所なので、数年前から同園にもたまに足を運んできました。というのも、ここには京阪神ではあまり目にすることがないコルクガシ [ 学名 : Quercus suber ] が植栽されているからです(図8-244-2参照)。
ただ、昨年までは樹上に結実したドングリの姿は勿論の事、樹下に落ちたものすら一度も見たことがなかったので、てっきりこの樹にはドングリが実らないものだとばかり思っていました。ところが、今年の5月に、森林植物園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] にスカーレットオーク [ 学名 : Quercus coccinea ] やヒメカシワ [ 学名 : Quercus fabri ] があることを教えて下さったAさんから、神戸市立農業公園にあるコルクガシでドングリを拾ったことがあるとお聞きしましたので、今年は高塚山緑地を訪れる際には必ず同園に立ち寄って、結実状況を確認することにしました。
コルクガシは南ヨーロッパや北アフリカに分布し、樹高が20m、幹直径が1.5mに達する一年成の常緑高木です。神戸市立農業公園の個体は、樹高がおよそ10mで幹直径が30cmある比較的大きなものです(*)。樹皮は典型的なアベマキによく似ていますが、名前の通りコルク層が厚く発達している様子は、アベマキの比ではありません(図8-244-2参照)。
* 神戸市立農業公園内には、コルクガシがもう1体あります。こちらは背丈が低く、昨年頃から葉が全て枯れ落ちたままの状態です。
また、葉の形や枝葉の様子はウバメガシとよく似ています。同じ個体でも、葉のサイズや形が大きく異なる点もウバメガシとそっくりです。文献には、葉の裏側にだけ毛が密生すると書かれていますが、同園の個体の葉は表側にも星状毛が密生しています(図8-244-3参照)。
ドングリがそろそろ大きくなり始める9月頃から、望遠レンズ付きのカメラで樹上の結実状況を確認しようと思ったのですが、ドングリは低所の枝には皆無であり、高所の枝には小さな葉が密生しているせいで結実しているのかどうかよく判りませんでした。そこで苦肉の策として、樹のてっぺん付近から少しずつ下方に位置をずらしながら連写モードで写真撮影し、300枚以上撮影した写真を自宅で1枚ずつパソコンの画面で拡大しながら、ドングリの有無をチェックすることにしました。
9月〜10月中旬までは、それらの写真の中に全くドングリが写っていなかったので、今年は駄目かもしれないとすっかり諦めかけていたのですが、10月末の雲一つない無風の晴天日に撮影した写真の中に、2枚だけ結実している姿が写っていました(図8-244-4参照)。
ドングリが確認できたことで、10月末からは俄然採集に向けてやる気を出てきました。そして、先日ようやく落下したドングリを4つ手にすることができました。残念ながら、それらの内の3つは大なり小なり動物に齧られた跡があり、もう1つはトラクターのようなものが樹下を通過した際に踏みつぶされていました。図8-244-5のドングリは、僅かですが動物に齧られた痕跡があるものです(写真の背面に齧られた空洞があります)。
今回見つけたドングリの堅果長は4つとも全て30mm前後で、図8-244-5の堅果だけが37mmで突出していました。堅果は触った感じが少し柔らかかったので、解体してみると果皮厚は0.25〜0.3mm程度でした。これは、国産のドングリと比較してもかなり薄い部類に属します(**)。一方、殻斗についてみると、鱗片の先にウバメガシと似たような赤黒い小さな爪のようなものが見られました。
来年以降も高塚山緑地を訪れる機会があれば、必ず同園にも立ち寄ってみるつもりです。今度は、動物に齧られていないコルクガシのドングリを採集したいものです。
** ドングリの果皮厚については、セクション11-1を参照願います。
(追記)
残念ながら、このコルクガシは2017年に伐採されてしまいました。