雑記242. 2016.11.16
“ まるでシラカシのような... ”
  アラカシとシラカシはドングリや樹形(樹皮、葉等)がよく似ていますが、DNAレベルでもかなり近しい関係にあります。ところが、多果の発現率をみると、アラカシはシラカシと比べものにならないぐらい低く、結実するのは極めて稀です。これは、私の観察結果を基にした経験則のようなものです。

 ただ、そんなアラカシにも例外があって、今年の秋に山田池公園 [ 所在地 : 大阪府枚方市 ] でたくさんの多果ドングリを結実した個体が見つかりました(図8-242-1参照)。この個体の樹高は4〜5mぐらいですが、地上から3mぐらいまでの枝に結実したドングリをくまなくチェックしたところ、20個以上の多果ドングリが確認できました(図8-242-2参照)。

 
 普通のアラカシの果軸長は10〜20mm程度ですが、この個体の果軸長は30mm前後もあるので、もしかするとシラカシとの交雑種かもしれません
(*)。単果についても結実状況は極めて良好で、驚いたことに1本当り7個もドングリを結実した果軸が樹上のあちこちに見られました(図8-242-4参照)。
  * シラカシとの交雑種であると考える根拠については、雑記213を参照願います。但し、果軸の長さはコナラ属が出現してから現在に至るまでの間に少しずつ短くなっている可能性があるので、もしかすると果軸の長いアラカシは、アラカシが出現したばかりの頃の形質を多分に引き継いでいるだけなのかもしれません。

 これまでも、アラカシの多果が発現した例について度々紹介してきましたが、果軸長が40〜50mmもあるアラカシは多果を発現しやすい反面、それらが結実することは稀でした。
 シラカシとの交雑の度合とアラカシの果軸長の間に相関があるかどうか定かではありませんが、アラカシでは稀にしか発現しない多果が果軸の長い個体ほど顕著であることから、おそらく果軸が長い個体ほどシラカシの血が濃いのではないかと思われます。だとすると、この個体の果軸長は30mm前後なので、果軸長が極端に長いもの(40〜50mm)に比べれば、シラカシの血はそれほど濃くないのかもしれません。
 雑記225で、交雑種でも適度にシラカシの血が入ったものなら、成熟した多果ドングリをたくさん結実するのではないかと推測していましたが、この個体が正にそれなのかもしれません。


 最後に、国産のコナラ属の樹木における多果の発現について私見を述べさせていただきます。これまで多果を発現する樹種について調査してきた結果、樹種によって多果の発現率にある傾向がみられることに気がつきました。それは、長い果軸をもつ樹種(種内の平均的な果軸長を意味します)ほど多果を発現しやすいということです。
 コナラ属の中でも、最も長い果軸をもつシラカシの発現率が極めて高いこと。そして、シラカシに次いで長い果軸をもつミズナラ、アカガシ、ツクバネガシ等は、シラカシほどではないけれども、他の樹種に比べると発現率が高いこと。さらに、クヌギやアベマキ、コナラ、ウバメガシのような10mm前後の短い果軸をもつものは、滅多に発現しない(発現しても結実しない)ことがその理由です。
 一般に、同じ属種でも1つの殻斗が包含する堅果の数が少ないものほど、進化の下流に位置すると考えられています。この考えと、私が指摘する進化と共に果軸が短くなっている事や、多果の発現率が果軸の長い樹種ほど高くなる傾向がある事は、互いに相補的な関係にあると思うのですが、果たしてこれは偶然なのでしょうか。