雑記238. 2016.10.30
“ ヒメカシワのドングリ ”
 以前、このHPをご覧になられたAさんが、兵庫県神戸市にある森林植物園に、スカーレットオーク [ 学名 : Quercus coccinea ] が植栽されていることを教えてくれました(*)。ただ、残念ながら今年は不作みたいで、成熟したドングは採集できませんでした。スカーレットオークについては、来年以降もトライし続けたいと思います。

 ところで、Aさんはこの情報を提供して下さった際に、同園にヒメカシワが植栽されていることも合わせて教えてくれました。こちらは順調に成長した結果、この秋5体ある中の2体で結実しました。
* 雑記212を参照願います。

 ヒメカシワ [ 学名 : Quercus fabri ] は、朝鮮半島、中国東部/南東部、海南島に分布し、樹高が20〜25m、幹直径が1mに達する一年成の落葉高木です。ただ、森林植物園に植栽されているものは、樹高が2〜6mぐらいの小さなものばかりです(図8-238-1参照)。

 ヒメカシワの樹皮や葉の形はカシワによく似てます(図8-238-2参照)が、葉のサイズがカシワに比べてかなり小さめであることから、ヒメカシワと呼ばれるのかもしれません(図8-238-3参照)。

 Aさんから情報を頂いたのが5月中旬だったので、開花時期には間に合いませんでしたが、情報をいただいてからすぐに同園を訪れた時には、まだ開花して間もない幼果を観察することができました。

 ここのヒメカシワは、葉の葉腋から花軸が立ち、そこに2〜3個程度の幼果がついていました。また、カシワやコナラは新梢の先端付近に花軸が集中しますが、ヒメカシワは新梢の先端から下方に互生する葉の4〜5枚目ぐらいまでの葉腋に花軸が1本づつ立っていました(図8-238-4参照)。花軸は長いもので10mmぐらいで、パッと見花軸が確認できないぐらいに短いもの(ほとんど茎に直接ドングリがついているような状態)の方が多数を占めていました(**)
** 一般に、ヒメカシワは葉腋から10〜40mm程度の花軸が立ち、そこに2〜4個のドングリが結実します。
 初めて目にする樹種なので、5月から10月にかけてドングリが成長する姿も観察しました(図8-238-5参照)。ドングリは9月に入ってから急成長し、10月の頭にほぼ成熟体と同程度まで大きくなりました。そして、10月23日に訪れた時には、2体の内の1体で結実していました。残りの1体についても、そろそろドングリが熟す頃だと思います。

 
 森林植物園で採集したドングリは、虫食害にさらされたものが多いのですが、ヒメカシワのドングリは2体とも産卵孔がほとんど見られず、どれもきれいなものばかりでした。堅果はとても小さく、長さが20mm前後、幅が10mm弱ぐらいで、果皮は肌理が細かく、触れると少ししっとりとした感じがしました。また、殻斗もウバメガシに似てとても小さく、コナラのように細かい鱗片に覆われていました。

 ヒメカシワのドングリをカシワと並べてみると、まるでライオンの雄と雌のようです。カシワに比べてドングリが小さく、殻斗もタテガミを思わせるような立派なものではないところも、ヒメカシワと呼ばれる所以かもしれません。