雑記236. 2016.10.19
“ やっと羽化に成功しました! ”
 大阪府堺市の桃谷台一丁目の街路樹から採取したマテバシイのドングリの中に、奇妙な幼虫を見つけたのは、今からちょうど3年前のことです(*)このドングリは樹上から直接採取したもので、他のドングリと比べて何も変わった様子は見られなかったのですが、殻斗を取り外してみると、そこには体長2mm程度のオレンジ色をした幼虫が6匹蠢いていました。その内の何匹かは、堅果のへその中に半身をくい込ませていましたが、しばらくすると全てへそから抜け出してきました。
 当時、幼虫の素性について調べる為に、これらをを透明なプラスチックの容器に入れて、羽化するまでの様子を観察することを試みたのですが、最初の数日間は元気に容器の中で動き回っていたものの、1週間もすると全て死滅してしまいました。

 その翌年にも、大阪府立大学 [ 所在地 : 大阪府堺市 ] の構内で、同じ幼虫が寄生したマテバシイのドングリを見つけたので、同じ方法で羽化を試みたのですが、やはり全滅してしまいました。

 そして、今年の9月、鶴見緑地 [ 所在地 : 大阪府大阪市/守口市 ] で採集したマテバシイのドングリから、三度この幼虫が出現しました(図8-236-1参照)。
* 奇妙な幼虫を見つけた経緯については、雑記132を参照願います。

 今回は、1つのドングリから全部で18匹の幼虫が現れました。体長には大小ありましたが、平均すると2mmぐらいでした。これまでと同様に、いずれも殻斗と堅果の境界部分に集結しており、中には堅果のへその隙間から湧き出てくるものもいました。

 幼虫が寄生していた堅果を解体したところ、以前観察した時
(*)と同様に、種子がほとんど成長していないことが判りました(図8-236-2参照)。この状況(**)から判断すると、幼虫は殻斗と堅果の接続部分に寄生して、殻斗から堅果(果皮や種子)に供給される養分を横取りしながら成長しているのかもしれません。寄生時期や寄生方法については判りませんが、種子の大きさから推測すると、これらの幼虫は6月頃から養分を摂取していたのではないかと考えられます。
** マテバシイのドングリには、種子がほとんど成長せずに、果皮だけが成熟体と同程度のサイズになるもの(シイナと呼ぶ)も多く含まれているので、必ずしも幼虫が本来種子に供給されるべき養分を摂取したせいで、種子が十分成長できなかったとは限りません。

 今回もプラスチック容器の中に入れておくだけでは、たぶん羽化しないと思ったので、容器の中をできるだけ自然に近い状況にしてみました。幼虫がドングリの中で羽化するのか、あるいは外部に出てから土の中で羽化するのか定かではありませんが、幼虫が落ち着いて潜伏できる場所と適度な湿度を確保するために、容器の下にスポンジシートと濡れたティッシュを置いてみました(図8-236-3参照)。

 スポンジシートには小さな穴が無数に開いているので、このサイズの幼虫なら容易に潜り込めるはずです。ドングリから現れた幼虫の中で活きが良さそうなものを10匹選んで、スポンジシートに載せてやると、一斉にシートの穴に潜り込んでいき、その状態のまま微動だにしなくなりました。

 そして、プラスチック容器に入れてから8日目に、小さな蚊のような昆虫が容器の内壁に10匹止まっていました(図8-236-4参照)。容器には全部で10匹の幼虫を入れたので、全てが無事に羽化したことになります。大して工夫したとは言えないこのシステムの、いったい何が良かったのでしょうか??

 パッと見蚊のようなこの昆虫の正体を明らかにするために、早速いつもお世話になっている 「明石・神戸の虫 ときどきプランクトン」(ブログ名称)の管理人様にお尋ねしたところ、タマバエ科 [ Cecidomyiidae ] の一種であることが判りました。

 さらに種類を同定する為に、管理人様に紹介していただいたハエ屋のサイト
「一寸のハエにも五分の大和魂・改」 にアクセスしたところ、九州大学の湯川教授がとても興味をもって下さいました。湯川様によると、今まで見たことがない珍しいタマバエで、今後詳しく調べていただけるとの事。心強いお言葉に感謝感激です!

 
 ということで、タマバエの同定に向けて話がトントン拍子に進んでいたのですが、いざ湯川様に検体を送ろうと思って私の部屋の机の上を確認したところ、置いてあったはずの検体を入れたサンプル瓶が見当たりませんでした。ふと机の下を見ると、サンプル瓶が床に転がっており、あろうことか中にあった検体が全て紛失していました。

 サンプル瓶に栓をしてしまうと、検体にカビが生えるので、十分に乾燥するまで開栓していたのですが、このような事態になるのなら栓をしておけばよかったと悔やまれてなりません。2階の窓際に置いてある私の机の上は見晴らしがいいので、いつも愛猫たちが机の上に載って外を見ているのですが、たぶんその時に瓶を落としてしまったのだと思います。
 
 そんな訳で、検体をお渡しして調べていただくのは、一年先ということになってしまいました。なんとも、恥ずかしい限りです。ただ、これまでに3度この昆虫が寄生したドングリに遭遇し、幼虫が寄生していそうな個体はおよそ見当がついているので、来年の9月にはきっと採取できると確信しています。検体は必ず準備しますので、それまでしばしお待ち下さいませ。