雑記234. 2016.10.13
“ 殻斗の波が消えました ”
昨年、三田中央病院 [ 所在地 : 兵庫県三田市 ] で見つけたシラカシのドングリは、これまで見たことが無いぐらい殻斗が激しく波打っていました(*)。こういう殻斗が生まれる要因を明らかにする為、今年は春の開花期からこの個体を観察し続けてきました。そして、殻斗に波が現れるのは幼果が等方的に大きく成長する8月頃であることを確認しました(**)。
* 雑記201を参照願います。
** 雑記224を参照願います。
その後、この個体だけ観察していても、殻斗が波打つ原因を明らかにするのは難しいと判断し、他でも類似する個体を探していました。その結果、運よく西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で似たようなシラカシが見つかりました(図8-234-1参照)。
この2体のドングリが成長する過程を観察し続けた結果、三田市民病院の個体では殻斗の波がどんどん激しくなっていくのに、西神中央公園の個体は逆に波が緩和されていきました(図8-234-2参照)。そして、後者については、殻斗の波を確認した9月11日からちょうど4週間が経過した10月 8 日の時点で、ほとんどの波が目立たないぐらいまで消失しました(図8-234-3参照)。
両者の差異を比較検討した結果、西神中央公園の個体ではしばらくするとほとんどの殻斗から波が消失したこと、そしてそれ以外の殻斗はすべて図8-234-3の赤枠で囲んだような形をしていたことから、やっと殻斗に波打ちが生じる理由が判りました。
一般に、ドングリの殻斗は堅果のサイズに応じて同調するように成長します。ところが、稀に殻斗の成長が堅果よりも先行し、成長し過ぎた殻斗の裾が殻斗の内側に巻き込まれてしまうことがあります(***)。図8-234-3の赤枠で囲んだドングリがこれに該当します。
*** この現象のメカニズムについては、雑記179で詳解しています。
殻斗が縦方向にのみ異常成長した場合、成熟したドングリの殻斗の一部が殻斗の内側に巻き込まれることはありますが、殻斗の表面に波は現れません。但し、横方向(もしくは縦横方向)に異常成長した場合は、殻斗の内径が堅果の外径よりも大きくなるので、堅果に接触している部分以外はつづら折りのように殻斗の表面側に突出して、波のようなうねりが生じます。
西神中央公園の個体では、殻斗に波が生じた後、その波を打ち消すぐらいまで堅果が成長したことによって、殻斗の波が消失したと考えられます。一方、三田市民病院の個体では、殻斗に生じた波を打ち消すぐらいまで堅果が成長しなかったせいで、ドングリの殻斗に激しい波打ちが残存したと考えれば、この現象を明確に説明できるのではないでしょうか。