雑記228. 2016. 9.23
“ 穂状花序から尾状花序へ ”
  コナラ属の樹木は春に開花するのが一般的ですが、個体によっては、春に開花してから秋に再び開花するものや、春から秋にかけて断続的に開花を繰り返すものがあります(*)。前者の代表的な例としてウバメガシ、そして後者はコナラやナラガシワがあげられます。
* セクション22を参照願います。

 春以外に咲くコナラ属の花は、春に咲くものと比べて花序の形態が大きく異なります。これまでに多くの個体で季節外れの開花現象を観察してきましたが、これらは樹木の気まぐれで突発的に現れたものではなく、多果と同様に、遠い昔に淘汰されたコナラ属の形質が現代に甦ったものであると私は考えています。

 そういう視点から、あらためて季節外れの花序を
見てみると、コナラ属の花序が具体的にどのように進化してきたのか、およそ推察できます。以下に、その過程を私なりにまとめてみました
(**)

1. 第一段階(原初の形態)
 花軸が茎から独立しておらず、普通の茎に直接花(多果や両性形態が主)が咲く。

2. 第二段階
 葉の無い茎に、複数の花軸が現れる。花軸は立ち上がった長い穂状で、花は多果や両性形態が主である。

3. 第三段階
 花軸の配置は現在の形態と同じで、新枝の上部に雌花が主体の花軸、下部に雄花が主体の花軸がある。花軸は立ち上がった長い穂状で、雌雄何れも両性形態の花が主である。

4. 第四段階
 花軸の配置は現在の形態と同じで、新枝の上部に雌花のみの花軸、下部に雄花のみの花軸がある。多果や両性形態の花も見られるが、第三段階に比べてそれらの数が大幅に減少する。花軸はどちらも立ち上がった穂状であるが、雌花軸だけが短くなり、そこにつく雌花の数も減少する。

5. 第五段階(現在の形態)
 新枝の上部に雌花軸、下部に雄花軸がある。雄花軸は長さがそのままで細くしなやかになり、風媒花の特徴である垂下した尾状花序である(図8-228-1参照)。
** 各段階のタイムスケールは不明です。


 但し、現在の形態(第五段階)に至るまでの4つの段階で、これまで一度もその姿を確認できていないものがありました。それが第四段階、即ち、雌花軸が現在と同じぐらいに短くて、雄花軸が垂下した尾状に変化する前の立ち上がった穂状のものです。
 コナラやナラガシワに見られる花は、第一段階や第二段階がほとんどで、ウバメガシでのみ第三段階(図8-228-2参照)を数多く目撃してきたので、第四段階が見つかるとすれば、それはウバメガシしかないと思って探し続けてきました。そして、ようやく山田池公園 [ 所在地 : 大阪府枚方市 ] のウバメガシでこれにマッチしたものが見つかりました(図8-228-3〜5参照)。

 図8-228-3は、第四段階が見つかった個体の樹上の様子です。ピンクの丸印で囲んだのが、この秋に咲いた花です。コナラやナラガシワと違って、季節外れに開花するウバメガシは存在自体が極めて珍しいので、そんな数少ない個体から探し求めてきた第四段階が見つかったのは、ラッキーとしか言いようがありません。

 私が想定する第四段階の新枝(図8-228-4参照)には、雌花軸が全部で3本あり、そのうちの2本は現在のものとほぼ同じ形態でした(長さ:10mm弱、雌花数:2個)。そして、残りの1本だけ長さが15mmの花軸に雌花が5個ついていました。一方、雄花軸はどれも穂状で、50mm前後あるものが7本ありました。この状態から、残りの1本の雌花軸が短くなり、雄花軸が細くなって垂下し尾状花序に変化すると、現在我々が普通に目にする新枝の花序になります。

 本件については、これまで取得したデータを整理して、後日あらためて全ての段階をビジュアルに詳解したいと考えてます。

(追記)
 セクション30 “ コナラ属の花序形態 ” を新設しましたので、こちらをご覧下さい。