雑記225. 2016. 9.12
“ どうして育たないのだろう? ”
 5月中旬に、高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で多果の雌花を大量に咲かせたアラカシを見つけました(*)。この個体は、標準的なアラカシよりも雌花軸が極端に長い(=40〜50mm)点などから、シラカシとの交雑種である可能性があります(図8-225-1参照)。
* 雑記213を参照願います。

 アラカシが多果を大量に発現することは非常に珍しく、これまでに栗ノ木谷公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] の個体(**)と高塚山緑地のこの個体でしか見たことがありません。しかしながら、前者については8月中頃まで順調に成長した後、急速に枯死して、9月中頃には樹上から姿を消してしまいました
** 雑記52、雑記55を参照願います。
 そういう事態を目の当たりにした事もあって、今回見つけたこの個体の多果がはたして無事に成長するのかどうか、とても興味がありました。そこで、春に開花してから足繁く現地を訪れて多果の様子をモニターしてきました。

 結果は、残念ながら栗ノ木谷公園の個体とほとんど同じような状況で、8月初頃までは順調に成長し、その後急激に枯死して、今月の10日に訪れた時には、樹上に1個しか確認出来ませんでした。図8-225-3にあるのが、その最後の1個(2果の幼果)です。もしかすると、アラカシはシラカシと交雑して大量に多果を発現しても、多果を結実しないのかもしれません。ただ、これらの2体については多果以外の単果についても結実状況が極めて悪いので、多果が結実しないのは別の問題が関与している可能性も考えられます(図8-225-4 左側参照)。

 アラカシの果軸には、長さが10〜20mmの典型的なものと、今回紹介した多果を大量に開花する長さが40〜50mmのもの以外に、それらの中間的な長さのもの(=20〜30mm)があります。中間的な長さの果軸をもつ個体も、シラカシと交雑している可能性がありますが、果軸の長さが40〜50mmの個体ほど大量に発現することはありません。ただ、それらの個体は単果の結実状況が比較的良好です(図8-225-4 右側参照)。

 シラカシのブレンド比が高くなるほど、多果を大量に発現しても結実しにくいのであれば、ブレンド比がそれよりも低めの中間的な長さの果軸をもつアラカシの中に、ほどほどに多果を発現して、ほどほどに結実するものが存在するかもしれません。そんな都合のいいアラカシがあるかどうかわかりませんが、そういう個体を求めてこれからも調査を続けていきたいと思います。


(追記)
 典型的なアラカシと比べて果軸が極端に長いことを交雑の証として取り上げていますが、その後の調査の結果から、コナラ属の果軸の長さは誕生した時から現在に至るまでの間に、徐々に短くなっている可能性があることが判ってきました。もしかすると、果軸の長いアラカシはシラカシと交雑しているのではなく、単に太古のアラカシの形質を多分に引き継いでいるだけなのかもしれません。