雑記217. 2016. 6.23
“ これは果軸であるが、枝でもある ”
 コナラ亜属には、春に開花してから断続的に秋の終わりまで開花する個体があります(*)。それらの中で、最もよく目にするのはコナラで、広大な緑地や大きな公園に植栽された個体を注意深く観察すれば、少なくとも1〜2体は見つかるはずです。

 季節外れに開花するコナラの特徴は、花軸が長くて、そこにたくさんの花をつけることです(図8-217-1参照)。具体的には、50mm前後もある花軸に雌花が10個ぐらい咲きます。これまでに、京阪神だけでこのようなコナラを数10体は目撃してきましたが、これらの花軸はコナラ属の祖先の形質を知る上で、非常に重要な知見をもたらしてくれると私は考えています。


 さて、先日訪れた高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] のコナラで、これまで目にしたことがないような珍しい形態の果軸を見つけたので紹介します。
  * セクション22を参照願います。

 高塚山緑地には、毎年季節外れに開花するコナラの中でも、これまでに見たことがないぐらい花序のバリエーションが豊かな個体があります。今回、その個体で果軸の先端付近に葉や冬芽があるものがたくさん見つかりました(図8-217-2〜図8-217-4参照)。言うまでもありませんが、これは花軸と茎の機能が明確に分化していない状態を表しています。

 季節外れに開花する個体の花序には、一般に我々がよく目にする穂状花序(雌花軸)と尾状花序(雄花軸)のような明確な区別がない部分が多々見られます。おそらく、これらはコナラ属が誕生してから現在に至るまでの間に、最適な花軸の形態を模索していた頃の名残であって、今回見つけた花軸は正に茎から花軸としての機能が分化する以前のものではないかと考えています。

 
 花軸の先端付近に葉や冬芽があるものについて、開花から一月半ぐらいしてから観察すると、果軸の先の冬芽が開いて新枝が現れていました(図8-217-5参照)。以前、セクション21の6項で、マテバシイの果軸の先端に現れた新枝について紹介したことがあります。その記事を掲載した時には、単にブナ科の植物における珍奇な現象の一つとして取り上げていましたが、あらためて考えてみると、これは今回目撃したコナラ以外の樹種において、花軸と茎が機能分化していない極めて稀なケースだったのかもしれません。

 季節外れの開花現象に見られる様々な花序の形態を調査することで、もしかするとブナ科の植物における花序の進化の道筋をたどることができるかもしれません。面白そうなので、これからも調査を続けていくことにします。