雑記216. 2016. 6.19
“ 幼果と果軸の接合部分の面積 ”
 マテバシイ属の殻斗は同じお椀形のコナラ属のものと違って、複数の殻斗が合着したような形をしています。これは、花軸上で複数の雌花序(殻斗の元になる器官+雌花)が近接して開花したことによるものと考えられていますが、私はそうは思いません。複数の雌花序が集結して、それぞれが形成した殻斗が合着しているように見えますが、実際は殻斗の元になる器官に咲いた複数の雌花の数や形態によって、こういう形に見えるだけだと私は考えています(*)
 そもそも、マテバシイ属の殻斗だけ複数の殻斗が合着したものであるという考え方は、マテバシイ属とコナラ属の花序が異質なものであるという先入観が生み出したものではないでしょうか。
* 雑記155を参照願います。

 確かに、典型的なコナラ属とマテバシイ属の果軸を比較すると、両者は異質なものに感じられるかもしれません。ところが、現在のコナラ属ではあまり見られなくなった多果が発現した果軸と比較してみると、両者の印象は全く違ってきます。

 図8-216-1に、典型的なシラカシの果軸(左)と多果が発現したシラカシの果軸(中央)、そして典型的なマテバシイの果軸(右)を並べてみます。シラカシとマテバシイの典型的な果軸を見ると、両者は全く別物のようですが、多果が発現したシラカシの果軸と比較すると、果軸の太さや幼果の質感に違いはあるものの、基本的な果軸(花軸)の構造は全く同じであることが判ります。

 両者の果軸のもう一つの相違点として、マテバシイの雌花軸には先端付近に雄花序が存在するものが多く見られます。これも、現在のコナラ属の果軸ではほとんど見られませんが、多果を発現しやすい個体では、先端付近に雄花序のある花軸が数多く見られます。ですから、この点についても花軸(果軸)の構造は全く同じだと考えられます(図8-216-2参照)。

 このように、現在我々が目にする典型的な花軸(果軸)やドングリの形態を見る限り、マテバシイ属とコナラ属は同じドングリの仲間とは思えませんが、コナラ属の祖先の形態を反映していると考えられる、多果が発現した花軸(果軸)と比べると、両者の基本的な構造に顕著な差は認められず、マテバシイ属の殻斗がコナラ属と基本的に同じ構造物であることが、違和感なく受け入れられると思います。

 今回、マテバシイ属の殻斗が合着したものではないことを示すデータをもう1つ紹介します。図8-216-3は、マテバシイの1つの殻斗の幼果と、3つの殻斗が合着したように見える幼果について、果軸と幼果の接合部分の面積を比較した結果です。

 左側は1つの殻斗の幼果、右側は3つの殻斗が合着したよう見える幼果を果軸から切除して、その接合部分を等倍率で撮影したものです。3つの殻斗が合着したように見えるものは、3個の雌花が一体化しているわけですから、果軸との接合部分の面積は単体の雌花序の3倍とは言わないまでも、倍以上の接合面積があっても不思議ではありません。ところが、実際の面積は大きく見積もっても1.5倍しかありませんでした。

 これは、以前シラカシの単果と3果の幼果で観察した結果と全く同じであり
(**)、非常にシンプルですが、マテバシイ属の殻斗が合着したものではないことを示す傍証であると私は考えています。
** セクション3-1-6を参照願います。