雑記213. 2016. 6. 4
“ 交雑の証 ”
 アラカシとシラカシを識別するための最も重要なポイントは、葉裏の毛の有無です。シラカシの葉裏には毛がありませんが、アラカシには必ず毛があります(毛の量には個体差があります)。

 どんぐりの図鑑等を見ると、葉の形の違いを識別ポイントに挙げているものが多いですが、これは葉裏の毛の有無に比べて曖昧な点が多いです。一般に、アラカシは葉身の先端から半分ぐらいまで鋸歯があり、一方のシラカシは2/3ぐらいまであると言われていますが、実際のところアラカシにも同じように葉身の2/3ぐらいまで鋸歯がある個体が少なからずあります。また、アラカシに特徴的な鋸歯の鋭さも、個体によってほとんど目立たないものがあります。

 このように、葉の形を見ただけでは、両者を識別するのが難しいケースが結構あります。たぶん、これらの個体はアラカシとシラカシの交雑種と思われますが、葉以外でもっと端的に両者が交雑していることを示す形態的な特徴がないか調べた結果、アラカシにはシラカシと非常によく似た花軸(果軸)が存在することが判りました。どういう点がよく似ているのか、具体的に以下にまとめます。

1. アラカシの花軸は10mm前後と非常に短く、そこに最大4個まで雌花がつきます。一方、シラカシの果軸は長さが20〜50mmと長く、そこに多いものは15個前後の雌花が咲きます(図8-213-1参照)。ところが、アラカシにも花軸の長さがシラカシと同じぐらいある個体が少なからず存在します。

2. 一般に、アラカシは4月中旬〜下旬にかけて開花します。一方、シラカシは5月上旬〜下旬にかけて開花します。ところが、長い花軸をもつアラカシの個体は、ほとんどが5月上旬〜中旬にかけて開花します。これは、アラカシとシラカシの中間時期、というよりはむしろシラカシに近い開花時期に相当します。

3. アラカシはシラカシに比べて多果を発現しにくい傾向があります。ところが、長い花軸をもつアラカシでは、シラカシと同じぐらいたくさんの多果を発現します(図8-213-2参照)。

4. シラカシは、多くの個体で両性花(正確には両性形態の雌花)が見られます。他の樹種では、普通両性花はほとんど見られません。ところが、長い花軸をもつアラカシは、シラカシと同じぐらいたくさんの両性花を咲かせます(図8-213-2参照)
 これらの点については、以前にもこのセクションで断片的に紹介してきました(*)。ただ、このような花軸をもつアラカシの個体数があまりにも少なかったので、これまで交雑について議論できるレベルに達していませんでした。
 しかしながら、ここ数年間、同様の事象を随所で多数目撃したことで、ようやくこれらの特徴がアラカシとシラカシの交雑の証である可能性が浮上してきました。
* 雑記75、雑記121を参照願います。


 高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] でも、今年あらたに長い花軸をもつアラカシが見つかりました(図8-213-3参照)。

 花の状態から見て、この個体も5月上旬〜中旬頃に開花したものと思われます。1本の花軸に10個前後の雌花が咲いていて、それらの中にはたくさんの多果や両性形態のもの(単果、多果両方)がありました(図8-213-4、図8-213-5参照)。これらの様子は、普通のアラカシとは全く違う、まさにシラカシそのものでした。


(追記)
 典型的なアラカシと比べて花軸(果軸)が極端に長いことを交雑の証としていますが、その後の調査の結果、コナラ属が出現してから現在に至るまでの間に、果軸の長さが徐々に短くなっている可能性があることが判ってきました。そんなわけで、ここで紹介した果軸が長いアラカシは、シラカシと交雑した個体ではなく、太古のアラカシの形質を多分に引き継いだ個体かもしれません。