雑記205. 2015.12. 8
“ 堅果を包含しない単果の殻斗? ”
 果軸といっしょに脱落したコナラの殻斗の中に、ときどき冬芽のような形をしたものを目にします(図8-205-1参照)。

 表面が殻斗と同じ鱗片で覆われているので、たぶん殻斗の一形態だと思うのですが、もしかするとコナラの殻斗に寄生する昆虫が形成した虫瘤ということも考えられます。そこで、図8-205-1と同じような形をしたものを高さ方向に切断して、内部を確認してみました。その結果、内部に虫室は見られず、殻斗と同じ組織で構成されていたので、これは殻斗と考えて間違い無さそうです(図8-205-2参照)。

 ただ、これが殻斗だとすると、コナラ属の単果は幼果を含めてどんなに小さなものでも必ず殻斗が堅果を包含しているのに、この殻斗は包含していません(図8-205-3参照)。殻斗が堅果を包含しない唯一の事例として、シラカシの紐状殻斗が挙げられます(図8-205-4参照)。シラカシの多果の殻斗に、稀に殻斗の本体から伸びる紐状の細長い殻斗(*)がくっついてますが、それらのほとんどは内部に堅果を包含していません。

 多果を構成する雌花の中には、極めて微細な単一雌蕊の雌花が存在します。それらは胚珠を持たず、成長に必要な維管束のパスが十分に確保できないものは、雌花が咲いて間もなく退化消滅します。ただ、雌花が消滅しても、殻斗はそれが存在したという開花時の情報を元にして形成されるので、成長しても堅果を包含しない紐状殻斗のようなものが存在すると私は考えています。
* 極めて稀に堅果を包含したものも存在するので、紐状殻斗が堅果を包含する為に形成されたものであることは明らかです。

 このように、堅果を包含しない殻斗は、多果を構成する紐状殻斗でしか見られない特殊な事例だと思っていたのですが、もしかすると、この冬芽のような形をしたコナラの殻斗も同様のプロセスで形成されたのかもしれません。