雑記202. 2015.11.15
“ ちゃんと包んで下さい ”
 ドングリの樹の中には、種類を問わず殻斗が変形したドングリをたくさん結実する個体があります。例として、図8-202-1に京都御苑 [ 所在地 : 京都府京都市 ] のツクバネガシから採集したものを示しますが、殻斗の一部が激しく変形している様子がよくわかります。

 これらの殻斗の内側を見ると、離層の痕跡から殻斗の裾辺りが激しく変形している箇所に向かって、維管束が延伸しているものが見られます(図8-202-2参照)。これは多果が発現した痕跡であり、殻斗の変形と多果の発現が密接に関係している証拠です。
 但し、図8-202-1の殻斗の中にはこの痕跡が見られないものもあるので、多果の発現以外にも殻斗の変形に関与している要因があると考えられます。

 先日、西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] のシラカシでも、殻斗が激しく変形したドングリをたくさん見つけました(図8-202-3参照)。

 図8-202-4はその個体から採集したドングリの一例ですが、殻斗の表面に激しい隆起や細長い紐状のものが見られます。
 殻斗には、維管束を通じて堅果に養分を送ったり、ドングリが成熟するまで虫食害から堅果を保護する役割があります。前者については、殻斗が変形しても特に支障はありませんが、後者については激しく変形することで食害に対する防御壁の役割が十分に果たせなくなります。

 図8-202-4の殻斗は変形しているとは言え、まだ十分に堅果を保護する役割が果たせそうですが、この個体で1つだけそれを放棄したドングリを見つけました。

 図8-202-5のドングリがそれです。このドングリの殻斗は、どの角度から見ても全く堅果を包んでいません。殻斗に包まれずに成長したせいか、堅果の形もなんとなく歪んでおり、表面にコケのようなものまで生えていました。こんな貧相なドングリを見たのは初めてです。

 このドングリの殻斗の内側を観察したところ、離層の痕跡から殻斗の裾辺りが激しく変形している箇所に向かって、維管束が延伸している様子は全く認められませんでした(図8-202-6参照)。多果が発現したわけではないのに、なぜこれほどまでに激しく殻斗が変形しているのでしょう?

 多果の発現が関与しない殻斗の変形要因について、あらたな知見が得られるかもしれませんので、来年以降はこの個体の開花から結実までの様子をトレースしてみることにします。


(追記)
 その後の調査で、雌花が咲いた時に殻斗の元になる器官が分裂したものが成長すると、このような形態の殻斗になることが判りました。詳細は、雑記296を参照願います。