雑記018. 2010. 1.17
“ ドングリの種皮ってどの部分なの? ”
 堅果をナイフで真っ二つに切断すると、種子とドングリの殻の間に、薄い茶色の皮や細かい毛のようなものがあるのが判ります(図8-18-1参照)。この中で、種子を被覆している種皮と呼ばれるものは、たぶん種子に密着している薄い茶色の皮の部分だと思うのですが、“ 花からたねへ(小林正明著 全国農村教育協会出版)” という本を読むと単純にそう考えていいものかどうか判らなくなってしまいました。
 今回は、ドングリの内部構造を詳しく調べることで、種皮と果皮を明確に区別してみたいと思います。

 その本を読むまでは、種皮は読んで字の如く皮ですから、種子に貼り付いている茶色い皮が種皮であって、それに付着する毛のようなもの[ 図中(b) ] や層状組織 [ 図中(c) ] は果皮の一部だと考えていました。

 ところが、この本には雌花を構成するパーツを変化させることで、種子を遠方まで運ぶのに少しでも有利な構造を作り出していることが詳しく図解されていて、その中に “ ガガイモは種皮の一部をフサフサとした毛に変えて、風の力を利用して効果的な散布を行う ” という記述がありました。
 私が問題にしていることと、本に書かれている内容とは本質的に異なるのかもしれませんが、種皮の外側を覆っている毛の様なものや層状組織はなんらかの目的で種皮が変化したものでないとは言い切れません。

 そこで、私なりに種皮と果皮の区別を明確にする方法が無いものか思案した結果、1ついいアイデアを思いつきました。普通の堅果(単果)の内部では果皮と種皮が一体化しているので、それを見ただけでは両者を区別することは難しいと思われます。ただ、もし仮に果皮と種皮が完全に分離している箇所が堅果の内部にあるとすれば、その部分の構造を調べることで両者を区別することは可能です。果して、そんな都合のいい箇所が堅果の内部に存在するのでしょうか?

 実はそれがあったんです!勿論、普通のドングリの中ではありません。図8-18-3をご覧下さい。これは、堅果の中に2個の種子が入ったドングリです。通常、ドングリには種子が1個しか入っていませんが、稀に2個の胚珠が同時に成長して、種子が2個入ったドングリが誕生します(*)。この図の果皮が破裂しているのは、本来1個の種子しか包含しないところに、2個の種子を無理やり包含しているので、膨張した種子によって果皮が裂けてしまったのでしょう。
 この堅果の中にある2個の種子も、普通のドングリの種子と同じ様に、それぞれが種皮で覆われていますが、ここで種子と種子が接する境界部分には種皮しか存在しませんので、この部分を調べれば種皮と果皮を明確に区別出来ます。

 2個の種子を丁寧に取り除いて、その間にある種皮を観察してみたところ、茶色い皮があるだけで毛などは一切含まれていませんでした(図8-18-5参照)。ということで、図8-18-1の(a)に見られる茶色い皮が種皮であり、(b)の細かい毛やそれらを被覆する(c)の層状組織は、果皮の一部という事がこれで明らかになりました☆

 本件は、恐らく植物学の世界では自明の事柄なのかもしれませんが、そういう予備知識を持たないで自力で謎解きするのって結構楽しいんですよね〜♪
 ドングリに興味を持ち始めた頃は、色々な形態のドングリを採集することだけに注力していたのですが、最近ではドングリを通して色々な思考実験や検証実験をすることに、興味の対象が少しずつ移行しつつあります。
* 2種子のドングリについては、セクション6-3を参照願います。