雑記179. 2014.11. 8
“ 殻斗の内側に鱗片が侵入する理由 ”
 今年の8月、服部緑地 [ 所在地 : 大阪府豊中市 ] を散策していたら奇妙なシラカシの幼果を見つけました(*)。そして、この幼果の構造を調べた結果、殻斗の裾の部分が堅果との間にできた隙間に入り込んでいることが分かりました(図8-179-1 参照)。
  * 雑記166を参照願います。

 この幼果の断面構造を見た時、以前から興味をもち続けてきた殻斗の内側に鱗片が侵入する現象(**)というのは、たぶんこのような幼果が成長した姿ではないかと直感しました。それから数ヶ月間、この幼果が成熟するのを待ち続けてきたのですが、先日やっと結実してくれました(図8-179-2参照)。
** セクション6-4を参照願います。

 成熟したドングリは、深くて肉厚な殻斗によって堅果の半分以上が覆われていました。早速、殻斗を取り外して内側を見ると、部分的ではありますが、ほとんどのドングリで殻斗の裾の部分から内側に向かって鱗片が侵入している様子が確認出来ました。
 
 これより、殻斗の内側に鱗片が侵入する現象は、ドングリが成長する過程で堅果と殻斗の成長速度のバランスがくずれて、殻斗の成長速度が先行したことで発生した余剰の殻斗の裾の部分が、堅果との間に出来た隙間に巻き込まれることによって生じたものであると考えてほぼ間違い無いでしょう。

 アベマキやクヌギの殻斗の中には、図8-179-3のように鱗片が殻斗の内壁を覆い尽くすものもあります。このような特異な形態をはじめて目の当たりにした私は、虫等の食害から堅果を保護するためにドングリが意図的に造り出したものかもしれないと考えました。ところが、今回明らかになった事実や他の樹種に見られる類似の形態の殻斗を見る限り、どうやらこれは偶然の産物に過ぎないのかもしれません。

 ただ、図8-179-3にある特異な殻斗をもつアベマキやクヌギの個体では、周囲に点在する普通の殻斗をもつものに比べて、堅果がほとんど食害を受けていないことは事実であり、たとえドングリが意図したものでは無かったにせよ、結果的にこの構造が食害防御策として一定の効果を有していることは確かです
(***)
** セクション16-2を参照願います。