雑記160. 2014. 6. 5
“ 季節外れに開花するコナラ ”
 4月に開花してから1ヶ月も経たない内に、それとは異なる形態の花序を咲かせるコナラがあります(*)。このような性質をもつ個体は少なからずありますが、いずれも1月〜3月までの冬期間を除くと、5月〜12月までの間は断続的に開花を繰り返します。
  * 季節外れのコナラの花については、セクション22-4を参照願います。

 服部緑地 [ 所在地 : 大阪府豊中市 ] にある個体もその一つで、先日同園を訪れた時にも、4月に開花したものよりも極端に長い花軸にたくさんの幼果が見られました(図8-160-1参照)。昨年の8月頃に見た時には、雌花や両性花(**)、そしてそれらが成長した幼果に混じって、雄花がたくさん咲いていたのですが、今回は幼果しか見られませんでした。

 季節外れの花が実を結ばないのは、同じ花軸(季節外れに開花した花軸には、雌花序軸と雄花序軸の区別が無い)に咲く雄花の花粉が不活性であることが原因だと思っていたのですが、もしかすると同じ性質をもつ個体の数が非常に少ないことや、雄花の開花時期が遅いことが関係しているのかもしれません。今後は、季節外れに開花する雄花の状況についても詳しく調査してみます。
 ** ここでは、雌花の中に複数の雄蕊をもった形態の花のことを意味します。雄蕊が機能しているかどうかは判りません。

 今回、5月に開花した果軸の中に、コナラでは滅多にお目にかかれない2果の幼果を見つけました(図8-160-2参照)。さらに、1つの殻斗の中に4個の堅果を包含した4果の幼果も見つけました(図8-160-3、図8-160-4参照)。一つ一つの堅果が殻斗によって分離されており、高次の多果としては非常に珍しい形態だと思います。

 
 このHPで紹介している季節外れに開花するコナラ属の個体
(***)は、どれも多果や両性花といったブナ科の植物では失われつつある太古の形質を色濃く残しています。これらは、コナラ属が誕生した当時の花や果実の形態を知る上で、とても貴重な生きた化石と言えるのではないでしょうか。
*** セクション22-2、22-3、22-4を参照願います。

(追記)
 後日調査した結果、図8-160-3、図8-160-4は高次の多果ではなく、1つの殻斗の元になる器官から出現した果軸についた複数の幼果であることが判りました。詳細は、雑記303を参照願います。