雑記155. 2014. 1.22
“ マテバシイの殻斗は本当に合着してるのか? ”
 マテバシイ属のドングリの殻斗は、同じお椀型のコナラ属のものに比べると見た目がだいぶ違います。具体的に言うと、マテバシイ属以外は全て堅果を包含した殻斗が独立しているのに、マテバシイ属だけが堅果を包含した殻斗がいくつか集まって一体化したような形をしているのです。一般の書物や文献でも、マテバシイ属の殻斗については、“ 複数の殻斗が合着したもの ” とか、“ 殻斗の集合体 ” といった言葉で表現されています。

 これまで、私もマテバシイ属の殻斗は複数の殻斗が合着したものだと思ってきましたが、様々な属種のドングリについてそれらの雌花と殻斗の対応関係を調べている内に、どうしてもマテバシイ属の殻斗だけが複数の殻斗が合着したものとは思えなくなってきました。
 

 
 図8-155-2は、マテバシイのドングリに見られる典型的な3つのタイプの雌花序と、それらが結実したドングリの形態を表したものです。便宜上、この図に付した説明書きは、全て殻斗同士が合着したものであることを前提にしています。
 この図のように、マテバシイの殻斗は椀状の形をしたものが単体、もしくはそれらが2つ乃至3つ合着したような形で存在します。もしもこれらの殻斗が本当に合着しているのであれば、それらの元になる雌花序も合着したものと解釈しなければなりません。

 ところが、次に示すスダジイの雌花序については、マテバシイのものと全く同じ形態にも関わらず、別の解釈が成されているのです。

 
 図8-155-3は、スダジイのドングリについて、3つのタイプの雌花序とそれらが結実したドングリの形態を表したものです。スダジイの場合は、殻斗の元になる器官に咲いた1つの雌花が結実して、1つの殻斗が1個の堅果を包含したドングリになります。これが、スダジイに見られる典型亭なドングリです。ところが、稀に殻斗の元になる器官に複数の雌花が咲くことで、1つの殻斗が2〜3個の堅果を包含したドングリが誕生します
(*)

 このように、マテバシイとスダジイの雌花序は形態が酷似しているにもかかわらず、マテバシイではこれを複数の雌花序が集合したものとし、片やスダジイではこれを1つの雌花序と解釈しなければならないことに、甚だ疑問を感じざるを得ません。恐らく、マテバシイの殻斗を特別視するあまり、複数の殻斗が合着したものであることを前提にして、それに合致するように雌花序の形態を解釈しようとしたせいで矛盾が生じてしまったのではないかと思われます。
 * 亜熱帯域に広く分布するシイ属の仲間には、1つの殻斗に1〜3個の堅果を包含したものがあります。

 
 ところで、独立した1つの殻斗でも複数の殻斗が合着したように見えるものがマテバシイ以外にもあります(図8-155-4、図8-155-5参照)。それは、コナラ属に見られる多果の殻斗です。例えば、シラカシの多果には、1つの殻斗が複数の堅果をまとめて包含したもの(図中 : 堅果統合型)と、1個の堅果を包含した殻斗がいくつか寄り集まって合着したように見えるもの(図中 : 堅果分離型)があります
(**)。このうち、後者の殻斗は形だけを見るとあたかも独立した殻斗が合着したように見えますが、元をたどれば前者の殻斗と同様に、1つの殻斗の元になる器官に複数の雌花が咲いた1つの雌花序であって、決して複数の雌花序が集合して合着しているわけではありません。
** 同じ雌花序でもそれらが結実したドングリの殻斗に統合型や分離型が存在するのは、殻斗の元になる器官で隣接した雌花同士の間隔が関係しています。詳細は、セクション3-1-4を参照願います。
 以上の点から、マテバシイの雌花序は複数の雌花序の集合体ではなく、スダジイと同様に殻斗の元になる器官に複数の雌花が咲いた1つの雌花序であり、それらが結実したドングリの殻斗が複数の殻斗が合着したように見えるのは、それぞれの堅果の形態に合わせて1つの殻斗がフレキシブルにその姿形を変化させたからであると私は考えています。