雑記151. 2013.12. 1
“ 殻斗の輪は、なぜ分断されるのか? ”
 蒲池公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で、殻斗が波打った異様なアラカシの幼果(*)を見つけてから、およそ3ヶ月余りが経過しました(図8-151-1参照)。そろそろ熟す頃なので様子を見に行ったら、この個体に立派なドングリがたくさん実っていました(図8-151-2参照)。
  * 雑記129を参照願います。

 それらの多くは、幼果の殻斗の表面にあった凹凸がほとんど目立たなくなっており、少し離れて見ると普通のアラカシのドングリと何も変わりませんでした(図8-151-2 左側写真参照)。初めてこの幼果を目にした時には、どんな珍妙なドングリになるのか楽しみにしていただけに、この姿を見て少しガッカリしてしまいました。

 ただ、幼果の時に殻斗の輪が分断されて、部分的に亀裂が生じていたもの(図8-152-1の青い矢印で表示したもの)については、殻斗がより一層激しく変形していました(図8-151-3参照)。

 これまで採集してきたドングリで、殻斗の輪が分断されたものには、殻斗の内側で殻斗と堅果が繋がっていた部分(図中の離層の痕跡)が分断された箇所に向かって延伸した痕跡が見られました(図8-151-4参照)。この状況から、延伸した先には本来もう一つ別の雌花が存在し、それが成長過程で退化消滅したことで殻斗の設計に狂いが生じて、結果的に輪が分断したのではないかと考えています(**)
** 離層の痕跡(維管束)の延伸や殻斗の輪の分断と多果との関係については、セクション17-1を参照願います。

 これはあくまで私の推測でしたが、今回採集したアラカシのドングリの中に、殻斗の輪が分断したことに多果の発現が関与していることを示す決定的な証拠が見つかったのです。

 図8-151-5の殻斗は、一見すると図8-151-4と同じ形をしていますが、殻斗が分断された箇所にちっぽけな物体が存在しました。その物体の付根の部分は、離層の痕跡が延伸した箇所と繋がっており、質感も殻斗と異なることから、成長途中で枯死した堅果と考えて間違いないでしょう(図8-151-6参照)。

 外観でそれと判るぐらいまで成長した堅果が残存していたおかげで、ようやく多果の発現と殻斗の輪の分断を明確に関連づけることが出来るようになりました☆