雑記015. 2009.12.25
“ Type15の殻斗を求めて 〜 多果ドングリの殻斗採集記 〜 ”
 私はドングリの中でも、とりわけ1つの殻斗の中に複数の堅果が入った多果ドングリに興味があります。そもそも、多果ドングリの形態に興味をもつようになったきっかけは、自宅の近くにある深田公園 [ 兵庫県三田市 ] にある1本のシラカシとの出会いにあります。

 シラカシは他のドングリの樹に比べて、明らかに多果を発現する頻度が高く、これまでに京阪神の随所で2果や3果のドングリをしばしば目撃してきました。ただ、多果と言えども普通の個体に結実するものにはこれといった特徴が見られず、殻斗に包含された堅果の数の違いを含めてもせいぜい5〜6種類ぐらいのバリエーションしか見たことがありませんでした。
 この程度であれば、特に私の興味をひくことは無かったのですが、2006年の秋に深田公園のシラカシに出会った時から、多果ドングリの形態の多様性にすっかり心を奪われてしまったのです。

 この個体は、2006年に大量の多果を発現しましたが、驚くのはその数量だけではありませんでした。殻斗に包含された堅果の個数を問わず、それらの形態が驚くほどバラエティに富んでいたのです。実物については、セクション3-1-3に掲載していますので、一度ご覧になってみて下さい。

 20006年に採集した多果を分類整理した結果、2果だけで5種類のバリエーションがあることが判りました。但し、3果については2果に比べて圧倒的にバリエーションが豊富であることから、その年に採集したものだけでは、予想される全てのバリエーションを網羅することは出来ませんでした。

 その後、2009年にこの個体から採集した多果を含めると、予想される3果の形態の全貌が見えてきましたので、表8-15-1と同じ略式記号を使って3果の形態のバリエーションを表8-15-2にまとめてみました。ここで使用している略称記号について簡単に説明すると、紫色、もしくは緑色の楕円形は単果の殻斗1つ分の大きさに相当し、紫色は複数の殻斗が一体化して複数の堅果をまとめて包含していること(統合型殻斗)、そして緑色のものについては各々の殻斗が堅果を分離して包含していること(分離型殻斗)を表しています。また、楕円形の大小は殻斗の大きさに表しています。そして、L型のヒゲのようなもの(*)は堅果を包含しない紐状の殻斗を表しています。
* L型のヒゲの様な殻斗が、堅果を包含するために形成されたものであることは、雑記130を参照願います。


 この表を見ると、2006年だけで3果の殻斗が少なくとも176個は落下し、それらの中に14種類の異なる形態が存在するのが判ります。さらに、これらの形態を分析した結果、もう1つType15の形態が存在することが予想されました。ところが、その翌年から2008年に至るまでの2年間は、この個体で多果が全く発現しなかったので、調査はすっかり頓挫してしまい、私の高揚した気持ちもすっかり萎みかけていました。

 ところが、2009年にこの個体を調査したところ、2006年ほどではありませんが、久しぶりにたくさんの多果の発現が確認出来ました。そこで、ドングリの落下が始まる11月末から連日箒を持参して、深田公園に通いつめました。
 えっ?!何で箒なんか持って行くのかって??それは、前日に落下したものの中から多果ドングリだけを採集して、それ以外のものを樹下から全て排除してしまう為です。そうしないと、樹下に累積した大量のドングリを毎日全てチェックしなければならないので、それらの仕分けに相当な時間を要するからです。

 とりわけ、Type15のように単果の殻斗とほとんど変わらない形状のものを1個1個手にとって識別するには、相当な時間と集中力が要求されます(最近やや老眼気味なので、この作業は骨が折れます)。しかも、六甲山の北側に位置する三田市は、この時期の早朝の寒さが半端ではありませんので、出来る限り短時間で作業を済ませるに越した事はありません。
 公園を散歩する人々の目から見て、毎日早朝から通路でもない所を箒で掃き清めている私の姿は、さぞかし滑稽に映ったことでしょう。でもその甲斐あって、探索開始から約1ヶ月が経過した12月22日に、漸くType15の殻斗を1つゲットしました(図8-15-2参照)。
 想像していたType15の殻斗が実在するのを確認できただけでも満足なのに完品が入手できるなんて、これはもう奇跡としか言いようがありません♪ ドングリの神様に、感謝! 感謝!!感謝!!!であります。