雑記146. 2013.11.11
“ 偶然の産物なのか? ”
昆陽池公園 [ 所在地 : 兵庫県伊丹市 ] のウバメガシのドングリで、鱗片が内側に回りこんだ殻斗を見つけました(図8-146-1参照)。これで、クヌギ、アベマキ、カシワ、コナラ(*)、ブラックオーク、シラカシを含む計7種類の殻斗で同じ形態のものが見つかったことになります。
* セクション6-4にコナラの例があります。
殻斗の外側を覆っている鱗片が内側に回り込むことの意義については、殻斗の実効的な厚みが増すことで虫食害に対する抑止力が高まることが考えられます(**)。
しかしながら、冒頭にある7種類の殻斗の中で、鱗片が内側をほぼ完全に覆い尽くすクヌギやアベマキの殻斗についてはこの効果が期待できると考えられますが、それ以外は殻斗の裾から鱗片が数mm程度内側に回り込んだだけなので、効果の程は不明でした。今回見つけたウバメガシの殻斗は後者に分類されますが、採集状況や構造の面で同じ形態の他の種類とは異なる点もありました。
** 詳細については、セクション16-2を参照願います。
一つは、この個体で採集した鱗片が内側に回り込んだ殻斗の数が極めて少なかったことです。他の種類では、特定の個体の数10%から多いものでは90%以上にこの形態の殻斗が見られましたが、この個体からはたったの4個でした。たぶん、この個体に結実したドングリの1%にも満たないと思われます。
また、昆陽池公園の個体でこの形態の殻斗を見つけてから、一週間以内に服部緑地 [ 所在地 : 大阪府豊中市 ] と平谷川緑地 [ 所在地 : 兵庫県三田市 ] の個体からも立て続けに同じ形態の殻斗を採集しました(図8-146-3参照)。各個体から採集したこの形態の殻斗は、前者が7個、後者が2個だったので、昆陽池公園の個体と同じような状況でした。
もう一つは、ウバメガシでは殻斗の内側に部分的にしか鱗片が回り込んでいなかったことです。ウバメガシ以外でも同じ形態のものがありますが、採集した全てがこの形態なのはウバメガシだけでした。殻斗の裾の全周から鱗片が内側に回り込むのであれば、虫害対策として何がしかの効果が期待できるかもしれませんが、部分的に回り込むだけでは効果があるとは思えません。
以上の状況から推察すると、鱗片が内側に回り込んだ形態の殻斗は、虫食害を防止する目的でドングリ自らが意図して武装したものでは無く、何らかの物理的要因で偶然に生じた可能性が高いと考えられます。現時点では鱗片が殻斗の内側に回り込むメカニズムは不明ですが、必ずや解明してこの問題にピリオドを打ちたいと思っています。