雑記136. 2013. 9.30
“ 秋に咲いても実はみのる ”
 昨年の秋に咲いた山田池公園 [ 所在地 : 大阪府枚方市 ] のマテバシイの花が、今月の上旬に見たら実を結びつつありました(*)。それから半月が経過して再び同園を訪れたところ、無事にそれらが結実していました(図8-136-1参照)。
* 雑記133を参照願います。

 図8-136-2は、図8-136-1の個体から採集した春咲きと秋咲きのドングリです。この個体では、春咲きの堅果に比べて秋咲きの方がやや堅果の幅が広いものが多く見られました。但し、堅果1個当たりの平均重量(**)については、春咲きのものが3.2g、秋咲きのものが3.4gであり、両者の間でほとんど差はありませんでした。

** 春咲きと秋咲きのものから任意に10個ずつ選んでそれらの総重量を測定し、1個当たりの平均重量を算出しました。

 前記の個体では、堅果の外観に微妙な違いが見られましが、念のために別の個体(図8-136-3参照)に結実した春咲きと秋咲きのドングリを調べてみました(図8-136-4参照)。

 すると、この個体では両者の堅果に顕著な違いは認められませんでした。また、堅果1個当たりの平均重量についても、春咲きのものが3.5g、秋咲きのものが3.7gであり、ほとんど差はありませんでした。
 なにはともあれ、これで “ マテバシイは秋に開花しても、翌年の秋には結実する ” と、自信をもって言えるようになりました。みなさんが最近拾ったマテバシイのドングリも、案外昨年の秋に咲いた花が実を結んだものかもしれませんよ♪

 さて、昨年の春と秋に咲いた花が、今年に入ってほぼ同じ時期に結実したことで、マテバシイの生態に関する重要な事実が明らかになりました。それは、マテバシイは開花してから正味一年もあれば十分に結実するということです。

 一年に二度開花した山田池公園の個体についてみると、春咲きのマテバシイは6月初旬に開花して、翌年の9月中旬に結実しました。一方、秋咲きのマテバシイは9月中旬に開花して、翌年の9月下旬に結実しました。
 この観察結果を元に、開花から結実までに要した時間をまとめてみると、春咲きのものは約15.5ヶ月、秋咲きのものは約12.5ヶ月となります。即ち、マテバシイがその気になってちゃっちゃと実を結ぼうと思えば一年もあれば十分であり、春咲きのものとの時間差(=約3ヶ月)は、成長に全く寄与しない完全なロスタイムということになります。

 一般に春に開花したマテバシイは、受粉後しばらくして休眠状態に入り、翌年の春に受精して秋に結実します。たぶん、ロスタイムというのが休眠している期間の全てか、あるいはその一部に相当するのでしょう。
 これまで、休眠と言われる期間にも、幼果の内部では受精に必要な準備(と言うか化学的な変化)が進行しているものだとばかり思っていたのですが、今回の結果を見ると、実際には幼果の活動は完全に停止していたことが明らかになりました。

 同じマテバシイ属のシリブカガシは、秋に開花して翌年の秋に開花することで、この休眠期間を最小限に抑えたライフサイクルを選択しています。マテバシイにも同様の選択が出来たはずなのに、なぜ敢えて無駄な時間を過ごす道を選んだのでしょうか?とても不思議です。