雑記135. 2013. 9.25
“ ハッキリと模様が現れてきました! ”
 雑記132で報告したストライプ模様があるマテバシイのドングリについて、2週間ぶりに現地 [ 大阪府堺市桃山台 ] に様子を見に行ってきました。8月下旬に初めてここを訪れてからこれで都合3回目になりますが、既に成熟したドングリがたくさん落ちていました。

 落下しているドングリの中には、ストライプの数がたくさんあるものと少ししかないものが混在していました。特に、ストライプの数が多いものはどれも果皮が赤褐色に変色しており、模様の濃淡が鮮明でした(図8-135-2参照)。


 採集したドングリを自宅に持ち帰り、ストライプの数が多いものと少ないものを幾つかピックアップして、それらの内部にある種子の大きさを比較したところ、前者は後者に比べてどれも種子が小さく、いずれも何らかの原因でやや未熟な状態で落下したものであることが判りました(図8-135-3参照)。


 一方、前回訪問した時(9月7日)に採集したドングリについて、ある重要な変化に気づきました。なんと、採集した時には僅かしか見られなかったストライプが、この2週間で増加していたのです。
 これらの堅果についても解体して種子の状態を調べたところ、採集した時に未熟だったこともあり、成熟したものに比べると種子はやや小さめでしたが、乾燥してさらに縮んだことが判りました(図8-135-4参照)。

 以上のデータを元に、なぜマテバシイの堅果の表面にストライプ模様が現れるのか以下に考察してみます。

 そもそもストライプ模様は、果皮の一番外側を包む組織に亀裂が入り、その下地の組織が表面に露出したことによって現れます。ですから、特定の果皮の組織にだけ亀裂が生じる原因を明らかにすれば、それがストライプ模様の発生するメカニズムを説明したことと同義になります。

 図8-135-5は、乾燥したシラカシの果皮の断面を走査型電子顕微鏡で拡大したものです。基本的な構造はマテバシイの果皮についても同じなので、この図をマテバシイの果皮の断面構造と見做して話を進めます。

 果皮は4つの異なる組織で構成されていますが、この図を見れば判るように、果皮の一番外側を包む組織 [ 図中:最表面層 ] (*)だけが緻密な構造をしており、その下地となる3つの組織 [ 図中:柱状組織、層状組織、毛状組織 ] (*)にはたくさんの隙間が見られます。この隙間は、果皮が乾燥して脱水したことによって生じたものです。
 このように隙間がある組織では、堅果の膨張や収縮に対して伸縮の自由度が大きいのですが、最表面層のような隙間のない緻密な組織は前者に比べて自由度が小さいことが予想されます。
   * 図8-135-5にある組織の名称は、このHP内で便宜上私が命名したものであって、生物学上の一般的な用語ではありません。

 マテバシイの堅果は、成長するにつれて膨張するだけでなく、成熟する直前に若干収縮します(**)。また、成熟して樹から落下した後は、周囲の気温や湿度の変化によって膨張収縮を繰り返しながら、最終的に元の大きさの9割程度にまで縮みます(***)。当然の事ながら、堅果の変化に同調して果皮も膨張収縮しますから、伸縮に対する自由度が小さい最表面層にだけ亀裂が生じるのです。これが、マテバシイの果皮の表面にストライプ模様が発生するメカニズムだと私は考えています。
 図8-135-3や図8-135-4に見られるストライプ模様の発生状況の違いは、いずれも種子が縮んで堅果の内部に空間が生じたことで、果皮の膨張収縮がより激しくなったことが関係するのではないでしょうか。
  ** ドングリの成長過程については、セクション13-3を参照願います。
 *** ドングリの質量や体積の変化については、雑記088を参照願います。

 ストライプ模様が発生する推定メカニズムは以上ですが、どうして全てのマテバシイのドングリにこの模様が現れないのかという疑問が残ります。これに関しては、ストライプ模様が発生しない個体のドングリは発生するものに比べて、果皮の一番外側を包む組織とその下地の組織との密着度の違い等が関係しているのかもしれません。