雑記132. 2013. 9.11
“ マテバシイのドングリの中から... ”
昨年の暮れに、大阪府堺市にお住まいのTさんからHPに掲載した記事についてメールを頂きました。そこには、Tさんのご近所の街路樹に、雑記Fで紹介したストライプ模様のドングリをたくさん落とすマテバシイがあると書かれていました。私は、ストライプ模様が発生する時期や原因についてとても興味があったので、メールを頂いてからマテバシイのドングリが成熟する8月下旬に現地に行くのを楽しみにしてきました。
Tさんがメールに添付して下さった地図を片手に、8月18日に初めて現地を訪れました。最寄りの栂・美木多駅(泉北高速鉄道)を下車して少し歩くと、道路沿いにマテバシイが点々と植栽されていました。Tさんに教えていただいた個体には、たくさんのドングリが見られましたが、この時点では明確なストライプ模様のあるものは見当たりませんでした。ただ、樹下に散乱した昨年の秋に結実したドングリの残骸には、ストライプ模様のあるものが幾つか見られました。
それから3週間が経過した9月7日に再訪したら、前回ストライプ模様のドングリの残骸があった個体の樹上に、うっすらとストライプ模様のあるドングリがあるのが確認出来ました(図8-132-1参照)。これから先、成熟して自然落下するまでの間にこの模様がどういうふうに変化していくのか、その様子をじっくりと観察してみることにします。
ところで話は変わりますが、今回ストライプ模様のあるドングリの探索に出掛けた副産物として、採集してきたドングリの中にこれまで見たことが無い奇妙な幼虫を見つけました。
初めて現地を訪問した際、サンプルとして殻斗が付いたままの状態のドングリを2つ採集してきたのですが、それから1週間が経過して何気なく殻斗を取り外したところ、一方のドングリの殻斗と堅果の接続部分(堅果のへそに該当する部分)に、体長が2〜3mmぐらいの細長い朱色の幼虫が6匹も潜んでいたのです。
このドングリはまだ未熟で、殻斗は堅果と強固に繋がってましたから、これらの幼虫が外部から直接この部分に侵入したとは思えません。だとすると、セクション9で紹介しているタマバチの仲間のように、成虫が細い産卵管を差し込んでドングリの内部に卵を産みつけ、孵化した幼虫が堅果と殻斗の接続箇所に集結していたということになります。
幼虫の生態についてもう少し詳しく調べる為に、2度目に訪問した際には18個のドングリを採集してきました。帰宅してからこれらの殻斗を取り外してみると、2個のドングリで同じように殻斗と堅果の接続箇所に幼虫が蠢いているのを確認しました。ドングリの中の幼虫の数は、それぞれ4匹と5匹で前回よりも少なめでしたが、この前に見た時から3週間も経過しているのに、幼虫のサイズはほとんど変わりませんでした。
さらに、幼虫が寄生していた堅果を解体してみると、やや乾燥気味の果皮組織の中に小さな種子がありました(図8-132-4:右側参照)。同時期に幼虫が寄生していないもの(図8-132-4:左側)と比べてみると、種子の大きさが極端に違うことが判りました。もしかすると、この幼虫が殻斗と堅果の接続箇所(維管束内)に寄生したことで、殻斗から堅果へ供給される養分が横取りされた結果、種子の成長が停止してしまったのかもしれません。
関連する書物や文献等を調べてみたのですが、現在のところこの幼虫の正体については何も判っていません。9月7日にドングリを解体してからプラスチックケース内に閉じ込めた状態で既に4日が経ちましたが、彼らは今なおケース内で元気に這い回っています。飼育してこの昆虫の成体を確認してみたいのですが、一体どうすればいいのでしょうか。この昆虫に関して何か知見をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご教授願います。