雑記131. 2013. 9. 5
“ やはり、成長しませんでした ”
 単一雌蕊に由来する幼果の内部を調べたら、単果、多果を問わず胚珠が見当たりませんでした(*)。ブナ科の植物の複合雌蕊(2枚以上の心皮から構成される雌蕊)の雌花には、普通心皮の数に応じた胚珠(基本的には心皮の数の倍)が存在するので、胚珠が存在しないのは1枚の心皮から成る単一雌蕊の雌花に特有のものなのかもしれません。
  * 雑記127を参照願います。

 
 単一雌蕊の雌花が胚珠を包含しないという観察結果に、今一つ確信が持てなかったので、今回あらためて別の手段で胚珠が存在しないことを確かめてみることにしました。
 コナラ属の場合、ブナ属のように胚珠を持たないものでも成熟体と同程度のサイズまで成長する
(**)ということはありません。ですから、複合雌蕊の幼果が受精して胚珠が大きくなり始める時期を境に、単一雌蕊の幼果の成長が停止すれば胚珠を持たないことを裏づける証拠になると考えられます。
 ** この現象を単為結果といいます。
 というわけで、掖谷公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で見つけた単一雌蕊の幼堅果をもつ18個の多果を対象にして、受精した胚珠が成長を始める7月の中旬(***)から8月の下旬までの約1ヶ月の間、それらの成育状態を調べることにしました。その結果、虫食害等で途中脱落した11個を除く7個について、観察を開始した時点から単一雌蕊の幼堅果の大きさはほとんど変化せず、同じ殻斗の中の複合雌蕊の幼堅果だけが成長していました(図8-131-3、図8-131-4参照)。
*** セクション14-2を参照願います。
 元々、多果を構成する幼堅果の中で単一雌蕊のものは極端に小さいので、複合雌蕊のものよりも維管束のパスの割り当てが小さく、成長に必要な養分が十分に供給されずに成長が停止した可能性は否定出来ませんが、全ての多果で単一雌蕊の幼堅果の成長だけがほぼ同時に停止した状況から判断すると、単一雌蕊の幼堅果には胚珠が存在しないと考えて間違いないでしょう。