雑記130. 2013. 8.26
“ 仮説から真実へ 大きく前進! ”
 図8-130-1の細長い紐状殻斗はどれも堅果を包含していませんが、これらは間違い無く堅果を包含するために形成されたものです。私はこれを証明するのに、紐状殻斗の内部に殻斗本体から分岐した太い維管束が通じていることを明らかにし、これを間接的な証拠としてきました(*)
 本当は、紐状殻斗の先端に小さな堅果を包含したものがあれば確かな証拠になるのですが、これまでに私が見つけた200個以上ある紐状殻斗の中には、どれ一つとして堅果の痕跡を示すものはありませんでした。
 * 詳細は、雑記89を参照願います。

 ところが、先日掖谷公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] の多果多産のシラカシを丹念に探索していたら、遂に紐状殻斗の先端から微細な棘のようなものが突出した幼果が見つかったのです(図8-130-2参照)。

 採集した幼果の紐状殻斗を実体顕微鏡で拡大してみると、先端部分に紛れも無く小さな花柱がありました(図8-130-3参照)。柱頭に該当する部分は僅かに欠損していましたが、外観の花柱は1本しかありませんでした。

 サンプルはこれ一つしかないので破壊するのは躊躇われたのですが、堅果を包含した紐状殻斗の断面構造を拝める機会はこのさき二度訪れないかもしれませんので、思い切ってこの部分を切断してみました(図8-130-4参照)。

 以前、堅果を包含しない紐状殻斗の切断面を見た時と同じように、紐状殻斗の内部には殻斗本体から分岐した太い維管束が通じていました。そして、その先には紐状殻斗の先端部分に埋没した小さな堅果が存在しました。この小さな堅果は、内部に種子を包含しておらず、なおかつ花柱を1本しかもたないことから、単一雌蕊の雌花に由来するものと考えられます。

 今回の発見によって、紐状殻斗が堅果を包含するために形成されたものである事が証明出来ましたが、実はこの発見にはもっと重要な意味が含まれていたのです。

 あらためて、紐状殻斗が堅果を包含したものとしないものを図8-130-5に並べて表示します。これらはいずれも2果であり、開花した時には殻斗の元になる器官に2つの雌花が存在したはずです。ところが、両者を比較すると右側には殻斗の中に2個の堅果がありますが、左側には1個しかありません。

 既にお察しの方もいらっしゃるかと思いますが、この対比図こそ私がこれまで実証しようとして叶わなかった “ 多果を構成する複数の雌花の一部が退化消滅する ” という現象を端的に示すデータだったのです。

 雑記128の末尾で説明したことの繰り返しになりますが、
このHPのセクション3-2で私は以下の仮説(**)を提示し、これが真実であることを立証するにはまず初めに、 “ ドングリの成長過程において雌花が退化消滅する ” ことが現実に起こりうる事象であることを明らかにする必要がありました。
(仮説)
広義の多果ドングリである変形ドングリ “ 変形くん” (*)は、殻斗の元になる器官に咲いた複数の雌花の内、1つを除く全てがその成長過程で退化消滅した結果誕生したものである
 どのようにしてこの事象をデータで示せばいいのか、正直言って全く見当がつきませんでしたが、今回の発見によって意図せずこれを成し遂げることが出来てしまったというわけです。

 ただ、この仮説を完璧に立証するにはもう一つ、“ 具体的にどのような雌花が退化消滅するか? ” という問題を解決しなければなりません。これに関しては、雑記128の中で退化消滅する雌花に対する具体的なイメージ
(**)を想定したので、今後はこれをベースに鋭意調査を続けていく所存です。
** 仮説の詳細については、雑記128を参照願います。