雑記126. 2013. 7.13
“ 子房? それとも花被?? ”
 ブナ科の植物の雌花は、雌蕊の子房が花被/花床によって包み込まれた下位子房(*)です。ですから、花被/花床と子房壁が一体化したものが成長して果皮(**)を形成していることになります(図8-126-1参照)。
  * 花被の付根よりも下に子房が位置するものを下位子房と言います。
** 生物学用語では子房壁を構成する心皮に由来する組織となっていますが、ここでは一般用語として果実の外側を覆う皮の意味で使用します。

 果皮の構造の例として、シラカを実体顕微鏡と電子顕微鏡で撮影したものを図8-126-2に示します。図中に記載した果皮の組織名称は、各部位を個別に説明するために私が便宜上命名したものであって、生物学における正式名称ではありません。

 図に見られるように、果皮は複数の異なる組織で構成されていますが、どの組織が子房もしくは花被(花床)に由来するものなのか、これまで断面を見ただけで判別することは出来ませんでした。ところが、先日採集した異なる形態の2種類の多果の幼果を実体顕微鏡で観察している時に、これらの組織を判別できる良い方法を思いつきました。

 図8-126-3に、開花後約1.5ヶ月が経過した2種類の異なる形態のシラカシの2果の幼果とそれらの切断面を示します。左側は殻斗に包含された2個の幼堅果が分離したもので、右側は2個の幼堅果が合着したものです。これらの幼果を胴回りで切断した断面を見ると、前者は花被/花床に由来する部分が各々の堅果を包み込んでいますが、後者は堅果が合着した部分だけそれが欠損しているのが判ります。

 このように、隣接する堅果が合着した多果について、合着箇所とそれ以外の果皮の構造を比較することで、果皮を構成する組織が何に由来したものであるのかを明らかにすることが出来るのです。

 以上の点を考慮して、2個の堅果が合着したシラカシの2果のドングリとそれを胴回りで切断した果皮の切断面を図8-126-4に示します。この断面構造と図8-126-2の左側にある果皮の組織構造を対比すると、花被/花床に由来するのは最表面層と柱状組織に該当し、それ以外の層状組織と毛状組織は子房に由来することが明らかになりました。

 多果はドングリの世界の異端児ですが、ドングリを深く理解するのに必要不可欠な存在である事をあらためて痛感しました。