雑記012. 2009.12. 2
“ ドングリの殻が果実の実であることのささやかな証 ”
 ブナ科の木の実であるドングリは、果実です。果実(真果)と言うのは、被子植物の子房が成熟したもので、子房の中にある胚珠が種子になり、胚珠を除いた部分が果皮になります(*)

 皆さんが果実という言葉から連想されるのは、果肉たっぷりで甘みのある蜜柑の様なものでしょう。蜜柑は果実の実(果皮)に該当する部分がジューシーであることから、液果に分類されます。一方、ドングリは果実の実に当たる殻(果皮)の部分が乾いているので乾果に分類され、その中でも果皮が非常に硬質であることから堅果に属します。

 植物学的には、前記の様に分類されているのですが、同じ果皮とは言え、どう見てもドングリの殻と蜜柑の実の部分に共通点があるとは思えません。なんかこう、ドングリの殻が果実で言うところの実であることを、目で見て端的に理解出来る証のようなものは無いものでしょうか。そこで、代表的な果実の中で、蜜柑と柿の内部構造をあらためて実見してみることしました(図8-12-1参照)。

 蜜柑も柿も中央付近に種があり、その周りを果皮が覆うような構造になっています。果皮は、内側から外側に向かって、内果皮、中果皮、外果皮の3つの部分に分かれており、我々が普段食しているのは、内果皮もしくは中果皮の部分に相当します。これらの基本構造が両者で共通している点について、逆の見方をすれば、この構造を有することが果実であることを端的に示す証になると考えられます。
 即ち、ドングリの殻が真に果実で言うところの実に該当するのならば、この薄っぺらな硬い殻は、3つの層から構成されていることになります。

 早速、クヌギのドングリをナイフで縦に割って、いつものようにスキャナーで殻(果皮)の断面を拡大撮影してみました。ところが、切り口が粗いせいか、どこから見ても3層構造には見えませんでした。そこで、中の種子を取り除いて、殻(果皮)の切り口をサンドペーパーできれいに鑢がけしてみたところ、薄っぺらな殻の断面に、3層構造がくっきりと浮かび上がってきました(図8-12-2参照)。ドングリの殻は、やっぱり果実の実だったんですね〜♪ 予想通りの結果に、正直びっくりしました。

* ドングリの雌花序の構造については、セクション3-1を参照願います。

(追記)
 本編は、ドングリが真果であるという私の思い込みを元に掲載したのですが、後日読者の方から偽果であるかもしれないとの御指摘を受けました。実際に、雌花や幼果を調べてみると、確かに子房に花被片が密着した状態で果実が成熟するのを確認しましたので、図8-12-2にある果皮の各層の識別には誤りがあるかもしれません。さらに、電子顕微鏡で果皮の構造を調査した結果、ミクロに見ると単純な3層構造ではないことが判明しました(セクション10参照)。
 今後、果皮の構造については、詳細に検証した上で改めて御報告したいと思います。