雑記113. 2012.12. 1
“ たぶん、文献未記載種でしょう ”
 10月中旬に、宮城県仙台市の台原森林公園を訪れた際、コナラの殻斗に形成された虫瘤(*)を見つけました。ネットの虫瘤に関するHP(**)を頼りに素性を調べた結果、 “ ナラミウロコタマフシ(学名不詳) ” と全体的な質感がよく似ていることが判りました。
 ただ、私が採集した虫瘤は該当するHPに付記された写真のもの(球形)とは異なり、筆先の様な形(図8-113-1参照)をしていたことから同定には至りませんでした。

 そこで、虫瘤の外観形態だけでなく、虫室や寄生している幼虫についても比較評価するために、採集してきた20個余りの虫瘤の幾つかを解体してみることにしました。
   * 詳細は、雑記104を参照願います。
 ** 北海道の虫えい(虫こぶ)図鑑 [ http://www.galls.coo.net/index2.html ] を参照願います。


 まず1つ切断してみると、内部には直径2mmぐらいの球形の虫室があり、中に4匹の幼虫が居ました(図8-113-2参照)。冒頭のHPにあるナラミウロコタマフシの解説には、“ 虫瘤の中には1つの虫室があり、その中に1匹の虫が居る ” とありましたので、どうやらこの虫瘤はナラミウロコタマフシとは別物であることが明らかになりました。

 ナラミウロコタマフシ以外の虫瘤でこれに類似するものを文献等で詳しく調べてみたのですが、どこにも記載されていませんでした。たぶん、これまでに幾つか紹介してきた虫瘤
(***)と同様に、これも文献未記載種なのだと思います。
*** 詳細は、セクション9を参照願います。

 さらにもう1つ、虫瘤の表面に3つの孔があるものについて、それと一体化した殻斗といっしょに切断して内部の構造を観察してみました(図8-113-3参照)。因みに、虫瘤の表面に孔があるものはこれだけでした。

 切断面を見ると、殻斗から堅果に至る維管束の一部が、虫瘤に向かって分岐しているのが判りました。維管束を分岐して、堅果に供給されるはずの養分を横取りすることによって虫瘤(寄生虫)が成長し、十分な養分を得ることが出来なくなった堅果は成長が停止して、幼果の段階で枯死してしまったと考えられます。

 ところで、図8-113-3の虫瘤には死んでから大分経過したと思われる成虫が1匹入っていました(図8-113-4参照)。虫瘤の表面にある3つの脱出孔と、虫瘤内に残留していた1匹の成虫から、この虫瘤の虫室内にも前記と同様に計4匹の幼虫が居住していたと考えられます。

 以上の結果から、コナラの殻斗に寄生していた昆虫がタマバチの一種であることはほぼ間違いないでしょう。採集してきた虫瘤はまだたくさん残っているので、成虫が羽化する時期について引き続き調査してみます。

 最後になりますが、仙台から戻ってきてあらためてこの虫瘤を探索したところ、近隣のはじかみ池公園 [ 所在地 : 兵庫県三田市 ] で同じ形態のものが見つかりました(図8-113-5左側参照)。雑記104の中では、京阪神で目にしたことがないと申し上げましたが、単に私の観察力が足りなかっただけでした。失礼致しました。

 ところで、この虫瘤を見つけたコナラをよく観察すると、非常に興味深い事実が浮かび上がってきました。なんと、この虫瘤と同数かそれ以上の殻斗(果軸)に形成された虫瘤
(***)がこのコナラに併存していたのです(図8-113-5右側参照)。

 寄生部位については、殻斗か殻斗(果軸)といった微妙な違いはありますが、どちらもドングリの堅果に養分を供給する維管束のパスを分断、もしくは分岐して形成された虫瘤であることに変わりはありません。同種のタマバチによる産卵箇所の僅差によって、全く異なる形態の虫瘤が出現したりすることってあるのでしょうか?