雑記111. 2012.11.21
“ 奇妙な物体の正体 ”
雑記97で紹介した、堅果と堅果の間に奇妙な物体が挟まったシラカシの多果が、やや未熟な状態で落下しました(図8-111-1参照)。
掖谷公園 [ 所在地:兵庫県神戸市 ] でこれを目撃して以来、他のシラカシでも類似のものを探してみたのですが、簡単に見つかる代物ではありませんでした。みなさんの身近にある多果を大量に発現する個体でも、この形態にはなかなかお目にかかれないかもしれません。
この多果を見つけた個体は、同園にあるシラカシの中でも例外的な存在であり、過去に幾度となく大量の多果を結実(*)しており、おまけに極めて稀にしか見ることができない4〜6果を発現した経緯もあります(**)。
そんなわけで、これに類似した形態を探し出すには、この個体と同等か、あるいはそれ以上に多果を発現した実績があるものを調べてみるのがいいと考え、深田公園 [ 所在地 : 兵庫県三田市 ] にある多果多産のシラカシに的を絞って探索しました。
その結果、同園にある4〜6果を発現した個体(***)で類似のものを7個も見つけることが出来ました。図8-111-2、図8-111-3は採集した例です。これらは、いずれも開花後3ヶ月以内に枯死した幼果です。
* この個体は、雑記73の “ シラカシ2 ” に該当します。
** この個体は、セクション15-2の表15-2にある “ シラカシD ” に該当します。
*** この個体は、セクション15-2の表15-2にある “ シラカシA ” に該当します。
堅果に挟まれた奇妙な物体の正体を明らかにするために、図8-111-3の中から(C)の3個並んだ幼堅果の内、中央の幼堅果を強制的に取り除いて、この物体を側面から観察してみました(図8-111-4参照)。すると、この奇妙な物体が、堅果と堅果の間にある殻斗の仕切り(図8-112-5参照)が延伸したものであることが明らかになりました。
この物体は先端に輪状構造物があることから、堅果を包含するために形成された小殻斗だと考えられます。恐らく、何らかの原因で4個あった雌花の1個が退化消滅し、その痕跡として堅果を包含しない小殻斗を残したのではないでしょうか。だとすると、図8-111-3にある3個の多果は、見た目は全て3果ですが、本来は殻斗の元になる器官に4個の雌花が咲いたことになるので、広義の4果ということになります。
セクション17にある “ 異形多果ドングリの世界 ” の中でも、殻斗の元になる器官に咲いた複数の雌花の一部が、成長過程で退化消失したことで生じたと考えられる様々な形態の多果を紹介しています。
ただ、殻斗の元になる器官にどういう形態の雌花が咲けば、このような小殻斗が誕生するのか現段階では不明なので、今後さらに踏み込んだ調査を進めていくつもりです。
(追記)
その後の調査の結果、この異物が殻斗から出現した果軸の先端に着いた幼果(堅果を包含しない殻斗)であることが明らかになりました。詳細は、雑記303を参照願います。