雑記109. 2012.11.11
“ アカガシ亜属にもありました! ”
 紅葉のシーズンを迎えた三田谷公園で、殻斗の内側にまで鱗片が回り込んだシラカシのドングリを見つけました。これまでは、コナラ亜属のドングリでしかこの形態のものを目にしたことがありませんでしたが、類似のものがアカガシ亜属にも存在することがこれではっきりしました(図8-109-2参照)。

 この構造の殻斗については、今から6年前に大泉緑地 [ 所在地 : 大阪府堺市 ] で見つけたアベマキとクヌギの殻斗に端を発し、それ以来私の個人的な興味も手伝って、他の種類のドングリでも類似の形態のものが続々と見つかっています
(*)
    * セクション6-4にコナラの例があります。

 鱗片が内側に回り込んだ殻斗は、ドングリの種類を問わず普段ほとんど目にすることはありませんが、今回は幸運にも自宅から徒歩で15分程度のところにある三田谷公園でそれを見つけました。

 身近にあるシラカシなのに、今までこの事に全然気づかなかったのは変な話ですが、実は私が初めて三田谷公園を訪れてから今年の秋を迎えるまで、この個体はほとんど結実したことが無かったからなのです。
 過去に、僅かばかりのドングリを結実した年もありましたが、その時にはこの構造のものは見つかりませんでした。ところが、今年は稀にみる大豊作で、大量に採集した殻斗の中におよそ20%の割合でこの特異な形態が存在しました。

 
 この個体のドングリは、殻斗の内側にまで鱗片が回り込んでいると言っても、類似の形態のクヌギやアベマキの殻斗(*)の様に、殻斗の内壁を鱗片が完全に覆い尽くすようなものでは無く、殻斗の裾からおよそ1mm程度内側に侵入していました(図8-109-3参照)。

 前記のクヌギやアベマキの殻斗の場合は、鱗片が殻斗の内側に回り込むことによって殻斗の実効的な厚みが増し、シギゾウムシのような昆虫が堅果に産卵するのを抑制する防護壁としての役割を果たすと考えられます
(**)
 ところが、今回見つけたシラカシの殻斗については、以前に見つけた類似の構造をもつコナラの殻斗
(*)と同様に、鱗片が内側に回り込んでも殻斗の裾部分が若干補強される程度で、これが虫害を抑制する機能を有しているとは考えられない状況です。
  ** 詳細は、セクション16-2を参照願います。

 ただ、私としては自説を立証するのに傍証となるデータの積み重ねが必要ですので、このシラカシのドングリを鱗片の回り込みが小さい場合の好例として、この特異な殻斗と虫害との関係ついて詳しく調査してみました。
 樹下に散乱しているドングリには殻斗がないので、未だ樹上にある殻斗が付いた状態のドングリを強制的に採集しました。そして、この特異な殻斗に包まれた堅果(総数:67個)には、産卵孔が認められませんでした。ただ、残りの普通の殻斗に包まれた堅果(総数:339個)についても、産卵孔のあるものは1個しかありませんでした。
 さらに、殻斗の構造が特定出来ない樹下に散乱した堅果を全て回収して、それらについても産卵孔の有無を調査しました。その結果、総堅果数:1328個に対して産卵孔のあるものは僅かに4個でした。
 このシラカシの殻斗は、他の個体のものと比べるとやや肉厚であることから、鱗片の回り込みが無い普通の殻斗でも虫害に対してある程度の妨害効果を有しているのかもしれません。

 これからも、殻斗の内側に鱗片が回り込むことにどのような意義があるのか明らかにする為に、様々な種類のドングリでこの特異な形態をもつ殻斗の調査を続けていくつもりです。